色-無双-SS (→01.5) 少しイライラしていたのだ。 先の戦から間もない、それはいつもと同じ日だった。 「…たく、孔明にはなにを言っても変わらんのか」 先の戦で珍しく勝利を収めたのだ、このまま北上して一気に許昌に攻め入るべきだ。と 再三孔明に提案しているが、孔明は「今はまだそのときではない」の一点張りである。 ここ数日、孔明にそのことを話してはふて腐れて帰宅する事が続いている。本当はもっと孔明に詰め寄って、きちんと理由を聞きたいのだ。 しかし、一向に理由を話さない孔明に痺れを切らし口論になった末、伯約に宥められて我に返ることばかりなのだ。 (絶対に、あれは孔明の作戦だ) と思うのに、自分で自分が止められないのだ。 理由は分かっている。 もう少し もう少しで、曹操に手が届きそうな気がするのだ。 そう思うと、逸る気持ちが止められないのだ。 いっそ一人で許昌へ突っ込んでいきそうな位なのだ。 そのことが間違っていることも、全く得策ではないことも気持ちの上では分かっている。 戦友が止めてくれなければ、きっと自分は単騎で乗り込んでいることだろう。 そのことについては感謝しているのだが 「明日は伯約が居ない時に孔明を尋ねてみるか…」 脳内で今日の反省を終え、明日の作戦を呟いた時だった。 (うぐ…!?) 突然腹部に衝撃を感じ、一瞬驚きで頭が真っ白になる。 (なんだ?) それまで上に向いていた視線を驚きで下に転ずると、小柄な女と自分の真ん前に居る赤髪の男と眼があった。 刺されたのではないという安堵とぶつかるまで気づかなかった自分に対してイラッとする気持ちが同時に訪れる。 「全く、人混みで暴れるとは一体何事…」 思わず、先まで呟いていた調子で思ったことをぽろっと漏らしてしまった。 赤髪が、ムッとしたのが 分かる。 そこで、漸く赤髪の顔を見た。 先から髪が赤いのでてっきり西域人かと、思っていた。 が、しかし よく見てみると、漢人のようでもある。 綺麗な顔をしているが、先の肘鉄の事を考えるとこいつは男だろう。うん、間違いない。 「お前、西域人か?」 言った後で、赤髪が謝りかけていたことに気づき(しまった)と思う。 が、今はそれよりもこちらの方が気になるのだ。 「そうですが?」 なんだ。 ここで、この赤髪に対する俺の関心は消え再び気持ちは明日の作戦を建てることに向かっていた。 ただ、再び先の調子で考えた事をぽろっと零してしまったのだ。 チラと赤髪を見やると女と眼を見交わしていた。 …俺にはそんなことより考えるべきことがあるのだ!まったく 「慣れぬ土地では無闇やたらに暴れぬ事だ」 最後に親切心から忠告をし、俺は自宅へと帰路を急いだのだった。 前へ次へ |