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いつものようにルッチ達に昼食を届ければ、***は自由だ。
自由と言っても、大好きな人達であるルッチ達には仕事があるため、彼らと一緒にいることはできない。
それ以外なら自由だ。
とは言え、特に用事もないので真っ直ぐにブルーノズ・バーへ帰るのだが。
いつもの道。
ここに来てずいぶん時間が過ぎた。それに比例して、この道を往復する回数もずいぶんなものとなる。
(ぼくはちゃんと皆さんのお役に立てているでしょうか…?)
ぼくのやっていることと言えば、毎日昼食を届けることとお店のお手伝い。
大好きな人達のためにもっと何かお役に立ちたい。
なのに、いつもお世話になっているのはぼくの方…。
皆さん、本当に優しい方達で、ぼくはそんな皆さんが大好きなのです!
そんな方々に報いるためにはまず、もっと長くお店を手伝えるようになれれば!
あぁ、でも夜はどうしても眠くなってしまうんですよね…。
うぅ、こんなぼくはやっぱり子供なのです…。
帰り道で自分のお役立ち度について悩んでいる***だったが、***は昼食を届けることや店の手伝い以外にもっと重要なことで役立っている。
それは、癒しだ。
***の可愛さに、皆が皆、日々仕事の疲れは吹き飛び、心は温かくなっている。
そんなことだとは本人は露知らず、『どうすればいいのでしょう?』と頭を悩ませながらぽつぽつと***は歩いていた。
その時、上の方から『あ!』と焦ったような悲鳴が聞こえた気がしたが、***が何でしょう?と辺りを見回すより早く、
「ひゃあああ!?」
突然後ろから突き飛ばされた。
突飛ばして来た誰かと共に地面に倒れこみ、***の剥き出しになっている腕が地面との摩擦で焼けるように痛んだ。目を白黒させる間もなく、ついさっきまで***がいた場所に上から何かが落ちてきて、そしてそれはガシャン!と激しい音を立てて地面に叩きつけられた。
「……え?」
上に覆い被さっていた人が退き、***は体を起こして一体何が落ちてきたのかと見た時、ぴきりと石よろしく固まってしまった。
一瞬前まで自分がいたその場所には、粉々に砕け散った植木鉢があった。中身の土は辺りに飛び散り、植えてあった小さな花だけは何事もなかったように風に揺れていた。
あれが、ぼくの上に…?
そう思うとぞくりと体が震えて、助けてくれた人の服を握ってしまった。
「大丈夫でありますか?どこかお怪我は?」
声をかけられて、あれ?と思う。その人の顔を漸く見ると、やはりそこにいたのはさきほど工場で会った着物の男の子だった。
「あ。さ、さっきの…」
「はい?……って、あぁ!!」
これまた突然、その男の子は驚きの声を上げ、***の腕を見る。***も自分の腕に視線をやると、突き飛ばされた時に擦ってしまった所が血を滲ませていた。
「血が出ているであります!」
「だ、大丈夫ですよ!ちょっと擦ってしまっただけですから」
「ああぁぁあぁ…!早く、早く手当てを…!!」
「落ち着けよ!何でお前がそんなに慌てるんだよ!」
***の怪我を見て、***以上に慌てる男の子の首が急にガクンと下がった。見れば男の子の頭の上に黒猫がのしかかっており、ちょうど今は***の目と黒猫の緑の目の高さが合っている状態だ。
ね、猫さんが喋っています!
これはどういうことでしょう!?
この猫さんもルッチさんのような能力者なのでしょうか?
そんな憶測をぐるぐると思い浮かべていると、その不思議な黒猫は***に話しかけてきた。
「お前、家はどこだ?送ってってやるよ。…送ってくだろ?」
最後のは***にではなく、乗っかっている男の子に向かって言ったらしく、男の子は『はい』と小さく返す。
「そんな!助けていただいてそこまでして下さらなくても…!」
「いいんだよ。って言うか、俺があんな何の集団なのか分からねぇ奴らのところに帰りたくねぇんだ。ってことで、こいつに礼も兼ねて持て成せ」
「そんな、玄冬さん…」
「い、いえ!おもてなし、します!」
男の子の方は止めようとしてくれていたようだが、***はそれを遮った。
黒猫さんの勢いに押される形になってしまいましたが、恩人にお礼もせずに返したとあっては、ぼくのプライドが、そして男が廃るのです!
子供でも、ぼくは立派な男なのですから!
そうと決まればお店に案内しようと、ヒリヒリする腕を我慢して立ち上がろうとしたのですが、あれあれ?どうしてだか立ち上がれません。
「大丈夫でありますか?」
男の子が手を差し出して、立つのを手伝おうとしてくれますが、立てません。
こ、これは、まさか…!
「……腰が抜けたか?」
はう!
その通りです、黒猫さん!
腰が抜けてしまったようです。
「すすすすみません!ちょっと待って頂いても…?」
「大丈夫でありますよ!」
男の子の温かい言葉にもう一度すみませんと言おうとすると、ひょいっと***の視線が高くなった。
あれあれ?
男の子の顔が近くて、体も宙に浮いてますよ?
こ、これは、まさか…!(二回目)
「お、お姫様抱っこ…!」
「?お家はどこでありますか?」
「へ?あ、あっちです」
「了解であります!」
ルッチ達によく抱っこはされているが、お姫様抱っこはあまりされたことはなく、さすがに***も少し照れがあった。が、楽な姿勢ではあるし何より助かるので『ありがとうございます』と言うと『いいえ』と笑顔付きで返ってきた。
何やかんやで、***はそのままブルーノズ・バーへと案内するのだった。
その後ろから付いて行く黒猫は、それでいいのか少年、と微妙な顔をしていた。
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