[ 5/40 ]

■■■




「ホーキンスさん、何故にあの方を見ていたのでありますか?」


今しがた去っていった少年を見送った後、○○○はカードで占いを始めてしまったホーキンスに訊ねる。彼独特の置き方でカードをぺたりと一枚置いてから、ホーキンスは視線はそのままに静かに答えた。


「少し良くない相が見えたから、気になっただけだ」

「え!?死相でありますか?」

「死相は出ていなかった。ちょっとした凶相…、怪我ぐらいはするかもな」


まるで他人事のようにホーキンスはさらりと言ってのける。実際、ホーキンスにとっては他人事なのだ。自分と、身内以外にどんなことが起きようが、興味がない。極端なのだ。
それに比べて、○○○はその逆だ。


「そ、それは大変であります!」


驚愕の事実を聞かされ、○○○は慌てる。

少しでも関わった人に対してすぐに深入りしてしまうのが、このちょっと変わった少年なのだ。
実は○○○はある揉め事に巻き込まれる形で、この世界にやって来てしまった異世界の住人らしい。そして色々あって、元の世界に帰れる日までホーキンスの所に世話になることになったのである。
なんでも、ホーキンス曰く、異世界の住人が自分の世界以外で死ぬのはいいことではないらしく、またホーキンス自身も異世界に興味があることが○○○を置いておく大きな理由らしい。しかし、その理由も最近少し変わりつつあるのだが、それはまた別の話。今は関係ない。


今は、さっきの男の子だ。
ちょっと目が合っただけで謝って行ってしまった男の子はきっと礼儀正しくていい子だ。そんないい子が怪我をするだなんて、いいことなはずがない。


「軽いものでありますか?それとも大怪我でありますか?」

「さぁ?あの鳩の男に邪魔されてそこまで判別できなかった」

「そうでありますか…」


あまり大きな怪我でなければいいけど…、と○○○は少年が向かった方を見やる。
その間にもホーキンスは順調に占いを進めており、今日会ったばかりの少年に不幸が降りかかると物騒なことを自分が言って置きながら、すでに少年のことなどには興味をなくしていた。しかし、少年への関心は失せていたが、目の前の○○○が心配そうに少年の去って行った方を見ているのは捨ておけず、カードから顔を上げて○○○に言った。


「大丈夫だ。死相は出ていなかったと言っただろう」

「で、でも…もし大怪我だったら、とても困ると思うのであります…」

「それは、本人は困るだろうな」


おれ達には関係ないが、とホーキンスは本当のことを当然のように言う。
それでも○○○の表情から心配の色は消えず、しばらく厳しい顔をしていたが、ついにホーキンスに正面から向き直って言った。


「私、ちょっと様子を見て来てもいいでありますか?」


その問に、ホーキンスは一通り占い終わってカードを集めていた手を思わず止めてしまった。


「…おれはここにいなければならないが」

「大丈夫であります!私一人で行くでありますから!」

「……」


拳を握って力説する○○○に、珍しくホーキンスは視線を彷徨わせる。
○○○の単独行動を許可したくない。それがホーキンスの正直なところだ。
ホーキンスは人の先のことが少し分かる。それは戦闘にも生かされているし、占いはホーキンスの人生の一部と言っても過言ではない。どんな人の運命も占うことのできるホーキンスだが、異世界の住人であるこの○○○だけは例外らしく、相も分からなければカードも当てにならないのだ。

だから今日、○○○がどうなるかはホーキンスにも分からない。

今、死相が出ているかだけでも分かればいいんだが…、とホーキンスは○○○に手を伸ばす。頬に触れると、○○○が不思議そうに首を傾げるのを見て、一つ静かに目を閉じる。そして再び瞼を上げた時には手を離して一言。


「行くといい」


言えば○○○はぱっと嬉しそうに笑う。


「ありがとうございます!」

「気が済んだら電伝虫に連絡をくれ」

「了解であります!」

「あまり無茶はしてくれるな」

「はい!」

「それから…………死ぬなよ」

「最善の注意を払うであります」


えへへと、また一つ嬉しそうに○○○が笑うと、○○○の肩からひょこりと黒猫が顔を覗かせた。どこか呆れた顔で黒猫は喋りだす。


「お前は心配し過ぎなんだよ。大丈夫だって。こいつその辺の奴にゃどうもされねぇよ」

「……」

「俺もついてくし」

「わ!玄冬さんがいれば百人一首でありますね!」

「百人力な。俺はカルタ遊びじゃねぇっての!」


的確なツッコミを入れるこの黒猫も○○○と一緒の異世界からやってきた住人だ。
異世界では動物が言葉を話せる、という訳ではなく、この黒猫が特殊なだけらしい。ちなみに名前は『玄冬(くろと)』と言う。
二人は友達なんだそうだ。


「ほら、行くならさっさとしろよ。見失うぞ」

「はい!じゃあ、ホーキンスさん。行ってきます!」


玄冬を肩に乗せたまま、○○○は少年の去って行った方へと駆けていく。刀を背負った小さな背中を、ホーキンスはただ無愛想に見送っていた。



[*prev] [next#]
top
表紙


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -