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「……」


見てる。
こっちを見てる。
確実に見てる。
じっと、微動だにせずにただこちらを見ている。
何の感情も見て取れない目がこっちを見ている。

悪いことなど何もしていないのに、何故かいたたまれなくなり、さらに背筋に冷汗が滲んできた。どんな海賊も返り討ちにしてきた船大工達が目を逸らしたくなる程、ホーキンスの目が恐かった。
しかしよく見ると、ホーキンスの視線はある一人に絞られて注がれている。嫌々ながらもその視線の先を辿ると、そこには…


「あいつ、***のこと見てないか…?」


パウリーの言う通り、***がいた。


「何じゃ?まさか、ルッチと同類か!?」

「やばいぞ!逃げろ、***!」

「ふえ!?」

「よし!二人はあの海賊の足止めを頼む!***はワシに任せるんじゃ!!」

「抜け駆けは許さんぞ!」

「お前ら喧嘩してる場合か!…おい、アイツこっち来たぞ!?」


ルッチとカクが***の取り合いをしている間に、ホーキンスがこっちに向かってきていた。それでも二人が『おれが!』『ワシが!』と譲らないものだから、もう目の前という所までホーキンスに接近を許してしまった。


「……」


やはりこの男、***を見ている。今はルッチの腕の中にいる***はばっちりとホーキンスと目が合っている。何も言わずにただ見られるということに耐えられず、***はへにゃりと笑って小さく頭を下げた。


「こんにちは」

「……あぁ」


反応が薄い。


「お前、***に何の用だ!?」

「***?……あぁ、名前か。別に用はない」


鳩が喋っていること(本当はルッチの腹話術なのだが)には特に驚きを見せずに、ホーキンスは答えた。その際にも***から目を離さないものだから、ルッチはホーキンスに睨みを利かせる。


「用がないならここから出ていけ!大体、ここは関係者以外立ち入り禁止だ!」

「ちょっ!ちょっと待ってくれ!!」


そう慌てて言ったのは勿論ホーキンスではない。後ろから追い付いてきたホーキンスの船員であろう黒ローブの男達の一人が言ったのだ。男達はホーキンスに『だから言ったじゃないですか!』とか『もう、あんまり人のことじろじろ見ちゃいけませんよ!』と言いながら腕を引いて下がらせていく。その船員達の言葉は、まるでというよりオカンそのものだった。

この様子だと、この海賊達はいつもこんな感じなのだらう。
一人前に出てきた船員がルッチ達にあせあせとフォローという名の弁解というし始める。


「あの人は、船長はちょっと変わっててだな、その、悪気はないんだ!いつもあんな感じで、急に人のことじーっと見たり、何もないとこ見つめだしたり、目の前に敵が来てるのに逃げるどころか座って占いしだしたり、いきなり異世界がどうとか言いだしたり、とにかくマイペースな人なんだ!」

「あぁ、よく分かった」


あんたらの船長が如何にマイペースで電波なのかが。

ホーキンスに対しての警戒心が船員達への哀れみに変わった瞬間だった。


「…で、お前さんらは船の修理に来たのか?」

「そ、そう!まぁどこも壊れてないから修理というより、メンテナンスだな。造船が盛んな島に来たからせっかく、ってことで」

「なるほどのう。じゃあ、まずはワシがひとっ走り船を見てくるとするかのう」

「おい!ルッチ!いい加減***離せ!仕事だぞ!!」


仕事の話が進む中、パウリーが正論を述べてルッチに***を放すように叱咤すると、渋々だが漸くルッチは***を下ろした。


「ルッチさん。お仕事がんばってください!」

「……!***!」

「だーかーらー!もう抱きつくなって!」


***の笑顔に、またルッチが抱きつきそうになったところを透かさずパウリーが止める。パウリーはくいっと顎で出口を示すと***に言った。


「***。忙しくなりそうだから、またブルーノの所でな」

「はい。待ってます!皆さんもお仕事頑張ってください!」

「おう!」

「また後でのう、***」


いつものように別れを惜しまれながら、***はお弁当を届けるという役目を終え、門へと向かう。
途中、誰かと話しているホーキンスと擦れ違った。話し相手は、積み上げられた木材に座り込んでいるホーキンスと、視線の高さが今は同じぐらいの小さな人。
***とそう年の変わらない男の子だった。今まで周りの船員達に隠れてその存在に気付けなかったらしい。
この子も海賊さん達のお仲間なのでしょうか?と***は疑問に思う。その訳は自分と同じ子供という点にもあるが、着ている服が船員達と違う点にもある。その子の服装はいつか本で見たことがあるワノ国の物に似ていて、確か着物という物だったはずだ。
色々な点から、海賊達の中でその子だけが異質で、浮いていた。
と、ぱちりとその子と***の目が合ってしまった。

はっ!い、いけません!
つい、じっと見てしまっていました!


「すすす、すみません!じろじろ見てしまって…」


慌ててぺこりと***が頭を下げると、男の子はこくんと首を傾げた。


「……?別にすまないことは何もないでありますが、いいでありますよ」


本当に全然気にしていなさそうで、ほっとする。

うぅ…、なんていい人なんでしょう。

ごめんなさい、ともう一度頭を下げて、***は休憩時間が終わって働き始めた船大工さん達の邪魔にならない内に、と足早にその場を後にした。



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