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ウォーターセブン。
『水の都』と言われる島。
この町中に水路が走る水上都市で有名な物を挙げるならば、海の線路を進む蒸気機関車『海列車』。
そしてもう一つは、世界最大にして最高の船大工たちが集まる造船会社『ガレーラカンパニー』である。これらのお陰でウォーターセブンは産業都市と呼ばれるに至ったと言っても過言ではない。
そんな『水の都』ウォーターセブンに、世界政府の諜報部員であるCP9が潜伏していることは誰も知らない上、絶対の秘密だ。CP9達はある物をある人物から手に入れるためにここにいるのだが、今はまだ彼らに大きな動きはない。
ある者は船大工として。
ある者は秘書として。
ある者は酒場の店主として。
彼らはただ、与えられたその役をそれぞれ演じていた。完璧に。
そんな彼らCP9が、任務とは関係なく執心しているものがある。
それは──…
■■■
「ル、ルッチさん!そろそろ昼食を食べないと休憩時間が終わってしまいますよ!」
「***がいれば例え三日絶食しても働き続けることができる」
「嘘じゃ!確かにおぬしなら食べんでも生きていけそうじゃが、仕事はせんじゃろう!」
そしていい加減に離れんか!と、いつまでも***を抱き締めて放さないルッチを、カクが引き剥がそうと奮闘している。それからいつものように『ハレンチだああああ!』とパウリーが騒ぐのはお約束。
もう一番ドックの日常となっているこの光景の中心にいる少年こそ、CP9ご執心の人物である。
半袖のシャツにネクタイを締め、そして黒いエプロンをした十歳の小さな少年***は勿論CP9ではない。その上、任務の内容さえもほとんど知らない。***はエニエス・ロビーの給仕をしていたのだ。そんな身の上の***だが、今は酒場の店主として潜伏しているブルーノの甥っ子として、そしてその店のお手伝い、という名目でウォーターセブンにいるのだ。
そして、現在。
ほとんど全てと言っていいほどに、***が関わった人々はこの可愛い少年を愛さずにはいられずにいる。エニエス・ロビーから付き合いのあるCP9のメンバーは勿論、市長のアイスバーグや解体屋のフランキーまでもが***に夢中だ。
だって可愛いじゃないか。
大人顔負けに礼儀正しくて、あのへにゃりとした笑顔を見たら抱き締めて頭を撫でて、かまい倒したくなるじゃないか。
これを聞いて否定する者は恐らくいないであろう。
そしてそれを日々執拗に実行しているのが次期職長と言われているロブ・ルッチである。(他の者もやっているが)
「おーい。もう休憩時間終わるぞー」
「ほれみろ!言わんこっちゃない…」
「***…***…」
カクが呆れ返った様子をこれ見よがしに態度に出しても、ルッチは***を抱き締めて頬擦りすることをやめなかった。その上***の頬にキスをし初める始末なので、カクとパウリーは本気で二人を引き剥がしにかかるのだった。
パウリー!ルッチを何とかするんじゃ!
おう!任せろ!
ベリッと、ルッチを羽交い締めにして引き剥がすパウリー。そしてちゃっかりカクは***を抱っこして頬擦りする役得である。
「ひゃああああ!カクさん!もうお客さんが来てしまいますよ!」
「大丈夫じゃ。そんなすぐには来んわい!」
ワハハハ、と爽やかに笑うカクに***も困ったようにへにゃりと笑ってくれる。嗚呼、可愛い。
そしてパウリーに羽交い締めにされたまま、殺気丸出しでギリギリとカクを睨み付けるルッチ。こんなルッチをパウリーだっていつまでも羽交い締めにしておきたくはなかったが、すんなり解放するのも何か癪だったのでそのままでいたが、
「船長!勝手に入っちゃマズイですって!」
聞き覚えのない声にその場にいた全員がそちらを向いたので、やっとルッチから手を引くことができた。
見ると、明らかに船大工ではない人間が数人、工場内をうろついているではないか。一人を除いて全員が黒いローブのような物を着ており、何かの宗教団体かとも思われる集団だったが、その黒いローブを来ていない男の顔にはどこか見覚えがあった。
ゆるく長い髪は金色で、眉の辺りには変わった刺青をしている。ついでに大きく開襟されている首元にも十字の刺青が彫ってあった。そして服装はやたらとひらひらしている。
全体的に見ると、その男は何だか……
「占い師の方でしょうか?」
今だにカクに抱っこされたままの***がぽつりと正直な感想を漏らす。
「クルッポー。あれは海賊だ、***」
「え!?と、とてもそんな風には見えませんね…」
「船長と呼ばれていたし、間違いない。あれは魔術師、バジル・ホーキンスだ」
「ま、魔術師ですか?」
なんてぴったりなんでしょう。
本当、ぴったりじゃな。
あぁ、ぴったりだ。
ポッポー。
ここで全員の意見が一致した。
「お前ら!ここは関係者以外立ち入り禁止だぞー!」
どう見ても海賊には見えない男、ルッチ曰くバジル・ホーキンスと言う男にパウリーが声をかける。
すると、ホーキンスがこちらに気付いたようで、あまりいいとは言えない目付きでじろりと視線を寄越した。
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