05


Arus side


王城に泊まった翌朝のこと。リーサに見送られ城を後にした。キーファは部屋に篭ったまま出てくる事はなく、仕方なしに一人でフィッシュベルに戻ろうと城下町を歩いていたが、酒場が騒がしい。普段、特に昼間なんかはすっからかんで騒がしいのは特に夜なのだ。まだ昼前だというのに。叔父がまた何かやらかしているのかもしれない、そう考えるだけで呆れて俯く。

(まったく……)

扉を押し開くとチリン、とベルが鳴ると同時に「いらっしゃい」とカウンターの店員の声が聞こえる。見渡してみれば町の男性は沢山いるのだがそこに叔父の姿は無く、違和感を覚えたのは見慣れない女性だけ。新入りさんだろうか。際どい赤のミニドレスを纏っている。顔はよく見えないが遠目から見る限り髪は藍色のようなもので、異様に短い。


幾日か前、突然家に現れた旅の人のことが頭をよぎったがいくらなんでもそれはあり得ない。別人だ、別人。そう自分に言い聞かせていると馴染みの店員から声がかかる。

「やあアルス、何か飲むかい?」
「あ、大丈夫です。騒がしかったから、叔父さんが何かやらかしたのかと思って」
「ホンダラさん?なら今日は来てないなあ。ね、それより」

小声で話す姿勢をとられたのでつられて耳を寄せる。

「最近入った女の子がね、人気なんだよ。ほら、そこの赤いドレスの娘。レツちゃんって言うんだ。べっぴんさんだろ」

指された方を見て、正直絶句した。そう言われてしまえばもう本人にしか見えないし、間違いなくあの旅の人なのだろう。見れば見る程自分の顔が歪んでいくのがわかった。

「異国の話とかしてくれてな、これまた話し上手なんだよ。……ってアルス?」
「あ、いえ、大丈夫です」

関わりたくない、早く帰ろう。その時

「アルスくん!?」

見つかった。

「やー!アルスくんーおひさしぶり」
「どうも……」
「どう?元気してた?」
「ええ、まあ」
「今はここで働かせてもらって、上の宿で暮らしてるよ。って、いくらこんなところでこんな格好してるからってそうあからさまにドン引かなくても」

以前と全く変わるところなくへらへらと話す彼はドレスがよく似合っていた。胸には何か詰めているのかそれらしい膨らみもある。
いくら自立するためとは言え、異性装をしてまで働くとはある意味見上げた根性である。自分の家に帰ればそれなりに仕事も選べるだろうに、よほどの事情があるのか。

「なに、知り合いなの?」

ずいっと店員が話に割り込んでくる。それを迷惑そうにするでもなくぺらぺらと話し始めた。

「行くところなかった時にアルスくんの家に一晩だけ泊めてもらったことがあるんですよー」
「へえ、なるほどね」

ふっとレツさんは自分の方に向き直ったかと思えば、手を掴まれる。

「困ったら私のこと頼ってね!占いまがいのこともできるから。というか私がまた頼らせてもらうかもしれないけど!」

にっこりと笑って握った手を上下に振った後、仕事戻るねーとカウンターの奥に消えた。
仕事の為に一人称も変えているのか。占いとか、その他の言動もあいまってますます不信感が拭えなくなった。









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