03


Arus side


幾日かぶりの我が家には、変な人が居着いていた。

食卓には見慣れぬ人が座っていて、母の手作りであろう食事をがつがつ食べている。誰だ。

「あらアルス、おかえり。皆心配してたんだよ!」
「あぁ、ごめん、それより……」

僕は再度その人に目を向ける。暗い青色ベースに、所々金色の毛が目立つ前下がりの短髪の女性。黒く大人しいような印象を受ける瞳。
現代に現れたウッドパルナから来たのだろうか。髪の長さから、やはり文化とは様々なのだと思わされる。エスタード島の女性は、髪を肩より短くすることはしない。

「この方は?」
「あぁ、レツさんだよ。旅の途中なんだって」
「Yes.レツです。よろしくね、アルスくん」

レツと名乗ったその人はにっこりとした笑顔で顔を上げ、挨拶をする。母から聞いたのか僕の名前は既に知っているようなので、軽く会釈だけしておいた。自分も席につけば、対面しているレツさんと自然と目が合う。その妙に黒い瞳に違和感を覚えた。自分も黒目だが全く違う風に思える。そこにあるのに、とても遠くに思うような。
そんなことよりも気にかかるのが何故自分の家に旅の人が居座っているのか。これはどう考えても宿泊を見据えてここに居るだろう。しかも、シャツを着ている。実際、旅人はそんな動きにくい服を着る訳がない。しかもそうそう手に入るものでもないだろうにどうして。
こんな風に知らない胡散臭い旅の人か度々家を訪れるのならそれは良い気がしない。

「俺ねえ、ウッドパルナから来たの。家にうんざりしちゃって出てきちゃったんだ」

へらっと、いきなり自分語りを始めるその人はどうやら僕に話しかけているようだ。今は丁度そのウッドパルナから帰宅したところだが。それより

「俺?」
「あ、うん、そうだけど?」
「ごめんなさい女性だと思ってました」

ここまでストレートにこのような事を口にするのは初めてかもしれない。どうせ一晩泊まるだけ、それに、どうにも不信感が拭えずある種の悪口のような意味も込められていた。それに気付いているのか何なのか更にへらっと笑って見せた。

「はぁ、そんなこと言われたの初めてだなあ……はは……うーん、女に見える、か……そうだなあ……」

その笑みが段々と何かを企んでいる顔つきになって、表情が金儲けを企む叔父のそれと重なり、不信感と少しの嫌悪感が増した。その時はっきり、自分はこの人が苦手だと確信した。

「うん、良いアドバイスになったよ。ありがとう、アルスくん」

どこに感謝しているのか全く理解しきれないままでいると、レツさんは料理を平らげごちそうさまでした、と呟く。

「マーレさん、後片付けのお手伝いしますね。」

そう言って彼は皿洗いを終えると、居間の片隅で布を被り就寝してしまった。
どうにも気になる、嫌いとまではいかないが苦手だからこそ。

「母さん、どうしてレツさんはこの家に?」
「途中で荷物落としちゃったんだって。かわいそうだし、一晩だけって言うから良いかなってね」
「……そうなんだ。父さんは?」
「アミットさんとお酒でも飲んでるんじゃないの?そのうち帰ってくるわ」
「……うん」


翌日、朝を迎えて居間に降りると出ていこうとする彼の姿が。

「もう行くんですか」
「そうだねー、お金貯めて宿で泊まれるようにがんばるよ」
「がんばってください」
「ありがとね。もしかして俺いなくなって寂しい?なんて、ね。多分また会うことになると思うけど、じゃあね」

昨日と変わらないへらっとした笑みを浮かべ、手を振りながら出ていくレツさん。また会うなんて、正直できることならお断りしたいがどういう意味なのだろう。
そういえば彼はこれから何処へ?自分が知らなくてもいい筈なのに何かひっかかる。おかしなこともあるものだ。まあすぐに忘れるだろう。ただの旅人のことなんか。










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