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メモリアリーフを出た直後、ルーラで神殿へと飛ぶ。それを使えることに驚いた。小説では、そう易々と使うものではなかったから、やはりゲームが基盤なのだろうか。リアリティを追求すれば、やはりこのような皆の憧れる利便性抜群の呪文は頻発できないだろうし。
アルスが唱えた後、いきなりぐっと浮上する感覚が襲って、ああこれだめだと希望を捨てる。臓物がせり上がる感覚。まだ、なんとかなると思っていたのだが、これもやはり気持ちが悪い。

すとん、着地には成功した。それでもよたよたとたたらを踏む。

「レツ、大丈夫か?」

またもキーファが声をかけてくれた。かろうじて立ってはいたから、上出来だ。

「ノープロブレム……」

青ざめながらも親指を立ててみせるとそうか、とやわらかく笑んで安心したような表情を浮かべた。

(そういえば……これで)

キーファとは、お別れだ。次に向かうユバールの休息地で、キーファは俺たちと永遠に別れてしまう。何度そこを訪れてみても、会うことは叶わない。物語に沿えば、石版がアルスの元に届くまで、色濃いキーファという存在に触れられない。アイラにはそれを思わせるだけの面影はあるのだろうか。途中、アルスが死ねばまた話は別だが。

「レツさん、行きますよ」

手招きをして、神殿の奥へと進む。アルスに続き、緑の部屋に入る。アルスが石版を取り出しぴたりと填める瞬間、皆はわくわくした、高揚を押さえきれないというような表情の中、俺だけが静かに息を飲んだ。


「あ、が、うぅ……」

放り出され、目先の半分に広がるは緑の大地。またしてもか。もう誰にも声はかけさせない、自力で起き上がってやる。よっこらせ、ぐるぐるする頭をかかえて立ち上がった。

「レツ、本当に弱いな」
「う、うるさい……仕方ないじゃん……」

元気出せよ、と背中にばしんと平手打ちを一発入れられる。すごく、痛い。

「さぁーて、今度はどっちの方角かな」

皮手袋をはめた手を額につけ、かざし、ゆっくりと辺りを見回す。自分も同じくして目線を動かしてみたが、なんともまあだだっ広い。大きな大陸故仕方ないことなのかもしれないが、これをユバールの民の野営地が見つかるまで皆にくっついて歩き回るのかと思うとそれだけで疲労感が襲ってきた。
山も見えれば海も見える。海が見える(といっても山の影がないだけで本当にその先に海があるかは定かではないが)のが北から東にかけてのはずだから、ここからだとおおよそ南西に向かって進むと迷わずたどり着けるだろう。

「北、どっち?」
「あっちです」

アルスが指差す方向に視線を向けて、なるほど、頷く。それならばと南西を指差した。

「こっちに進んだら早いかも」
「どうしてだ?レツ」

しまった。あまりにもナチュラルに口から滑り出てしまったそれ。単に不思議なようで、キーファは純真な瞳でこちらを見つめている。

「えっ、その、見えたから……かな!」
「何が見えたんだ?」
「占い!占いがそう趣味で、ほ、星!次の目的地はここだよっていう星がなんとなく出るからさ!それを、確認したわけであって……」

そんな嘘をついておいて、結構苦しい。そもそもそんな占い方あんのか。

「レツ、占いとかできるんだな、すげえじゃん。じゃあ、南西に向かって行くか!」

信じてくれてありがとう。





20160317







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