サイト2周年記念


「ねえ、アルスくん」
「なんですか」
「思い出せないんだけども」

くたびれた顔でベッドの上に座るレツは続けて、花言葉を、と発する。ゆるやかな波の音。旅の合間によく家に帰ってくるのはレツのリクエストで、きっとこの人がいなければアルスはもっと家離れしていただろう。本当に覇気のないその顔を見てアルスはため息をついた。きっと自分も同じような顔になっているであろうことを予測するのは仕方ないことだろう。同じくして、魔物と対峙してきたのだから。

「なんの花ですか」

特に花に詳しいわけではないけれど、アルスは衣類を畳みながら話を繋ぐ。

「それも思い出せない……確か、アルスなんとか」
「はぁ……」
「いや本当だよ?本当にアルスなんとかって花があったんだけど……こっちにはないのかな」

意味ありげな"こっちには"に少し引っ掛かるが聞かない方が良いのだろう。問いたくとも、まともな返事が返ってくるとは思えない。レツの言葉は、どこか食い足りないのだ。明瞭な嘘があるともいえず、しかし何かを隠しているのは明らかなもどかしさを持っている。

「どんなのですか」

アルスは、アルスで始まる名の花を知らない。マリベルにでも聞けば解決しそうだが、そこまでしてすっきりさせたいものでもない雰囲気なのでアルスはその提案をしなかった。レツは頭を抱えて唸っている。

「花はこう、ぶわっとしてて。なんだったかなぁ……えーと、アルス……」
「ドトキシン」
「毒かよ」
「……」
「……!?」

レツは目を見開き固まっている。毛の先さえもカチカチになってしまっているかのようだ。アルスが自分からノったのが相当驚いたようで、恐る恐る試しに、と次を言う。

「だからー、アルス」
「ファレノプシス……」
「胡蝶蘭じゃない……デンファレならぬアルファレ?ハァ?てかなんで俺がツッコミ……?」

顔には出さないが、案外ノってくれるらしいアルスの対応にレツは少し嬉しくなった。
嬉しくなったは良いが花の名前は思い出せず。もう嫌だと言わんばかりのむくれ顔でベッドにごろんと転がる。

「もやもやするー!なんかこう、アルスとろけるわみたいな感じので……いやイントネーションが違う……アルスメトロノームみたいな……」
「名前で遊ばれてるみたいなので頭のなかでやってくださいそういうの」
「ごめんなさい」

アルスは畳み終えた衣類を一ヶ所にまとめて、装備品の手入れを始める。レツは、それをしたがらない。面倒くさいと言いアルスに押し付けるのだ。只でさえ、マリベルのワガママ、ガボの保護者等義務ではないものの様々な役割を請け負っているのに、武具の手入れをしないぐうたらな同行者の所為でやることが増える。そういった意味ではアルスは苦労人なのかもしれない。それを断らないのもまた、魅力と言えばそうなのだが。

「おー、ちゃんとしてくれてんだ、ありがとね」
「仕方なくです」
「それでもありがたいよ、綺麗に使わないとね。継続って大事……」

レツが、あっと声をあげる。思い出したのか。アルスはそちらを見やった。

「継続とか、持続とかそういう花言葉だわ、アルスなんちゃら」

どうやら物事の本質ではないらしい。

「よかったですね、少しでも思い出せて」
「うーん、まあ、良かったかな……あ!?」

今度は先程よりもさらに大きな、下に響くんじゃないかと思うほどの声をあげる。

「思い出したわ!アルストロメリア!」

レツはやったあ、と両手両足をじたばたさせて上機嫌そうにしている。

「……聞いたことないです」
「そんなメジャーじゃないのかな。あと、花言葉追加。未来への憧れ。これはアルスくんには当てはまらなさそうだけど、どう?」

アルスは戸惑った。未来への憧れ。よくある単語を繋いだそれ。未来はあると信じて疑わないが、憧れとは。思慕の念はないが、心惹かれるという捉え方にすれば、成立する。有るのだ。全てを言葉に表すのは易くないけれど、やりたいと思うことが。しかしそれだと、やはり憧れとは違う気がする。

「どうって……憧れ、はあんまりないです」
「そうだよな、子供じゃあるまいし。大人になって自由したい!なんてこともない、今が最高に自由だし。じゃあ持続は?これから続けていきたいことってある?」

これもまた、アルスには難しい質問のように思えた。考えることと、ニュアンスが少し違う。旅を、仲間との関係を、仲間との絆を。もう少し丁寧に表現してみたいが、言われてしまうと持続という単語が頭から離れてくれない。

「それも、よくわかんないです」
「なんか、アルスくんってしっかりしてる割に何考えてるかわかんないよね」

抑揚なくレツは言う。アルスは今一度自分に問う。

「俺はね、アルスくんと旅、続けたいよ。持続って、変な言い回しかもしれないけどさ」

レツは寝転がったままアルスに背を向けた。そのままもぞもぞと四肢をベストポジションに移動させる。

「好きだよ、この生活。アルスくんが居るから」
「……なんか……えっと……」
「気持ち悪いとか思ってんだろうけど」
「……」

図星だった。確かに、男に言われて嬉しい台詞ではない。しかし、僅かながら嬉しく思ったのも事実で。レツの視線の先は向こうにあるのだから、照れ隠しは不要だ。

「そういえば、西洋での花言葉は友情、だったような」
「そうなんですか」
「今度、咲いてるの見つけたら摘んできてあげてもいいけど」
「……是非、お願いします」


2015.12.12
For Yellow 2nd anniversary
Thanks to everyone.


以下あとがきのようなもの

皆さんおはこんばんちは。
何故か迎えられた2周年。これは本当に皆様のおかげだと思っております。
ほとんど毎日、作品を読むか、書くかしている私ですが、やはり誰かが見てくれている、それが励みになるんです。誰も見てないってわかっていたら、今以上に手抜きにもなるし、やる気も起きません。自分の頭の中でドヒャーしていればいい話なので。
たまに感想を頂いたりして、こちらばかり良いことずくめで大丈夫かな、とも思います。皆さんに楽しんでいただけているのなら良いのですが……。とにかく、本当にありがとうございます!これからもちょいちょい遊びにいらしてください。少しずつお話を増やしてお待ちしております。

20151212 夏野









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