25


フォロッド王家に伝わるどくがのナイフ。それを恍惚の表情で眺めるマリベル。

「これ、なかなか綺麗よね」

現代世界への帰り道。アルスがそうだね、と心なしか嬉しそうに言う。やっぱり女の子は綺麗なものが好きらしい。先程まで、傭兵としての給金への不満をあれやこれやと並べていたのに、ふと思い出したのかそれを取り出して嬉しそうにする。ついでと言う様にフォロッド王のことも褒める。太っ腹よねえ、と。現金だよなあ。

「うんうん、わかる」
「あんたに同意求めてんじゃないわよ」
「あー、ごめんなさいってばよ」

なんだか、一層楯突かれるようになった気がする。一言間違えばその物理的に毒のあるナイフで一刺しだろう。あーこわい。

「ほら、もう扉だぞ。まだ帰ってもやることあるんだし、その辺にしといたらどうだ」

キーファが宥める。気遣わせてるなあ、申し訳ない。もうすぐそこに青い光は見えていて、少し安堵する。あの先に魔物は居ないのだと思うと、今からでも気が抜ける。
思いのほか、戦闘はきつかった。主要の戦闘には参加していないが、それでも雑魚敵でも油断すれば痛い思いをするわけで。よく保つよなあと思う。ただアルスらに適性があるのか、この世界の人間の性質なのか。ガボは除くとしても、アルスらだって、俺と変わらない歳まで魔物も何もいないとても平和な環境に居たはずなのに。

「レツ!ぼーっとするな!」

考えていたら足が止まっていたようで、ガボの一声と共に背中に鈍い痛みが走る。どつかれた。一歩踏み出せばそこはもうまばゆい光の中で、否応なしにたゆたう青を眺めることになる。どんくさいなあ俺。



「あー、疲れたわ」
「でも早く現代のフォーリッシュに行きたいぞ!」
「そうだな」
「ケツ打った……」
「レツさん大丈夫ですか?」

変な体勢で放り込まれたものだから、変に床に打ち付けた。どつかれた背中もじんわり痛む。俺より強いんだから、手加減してくれ本当に。

「さあ、明日にでも出発するか」
「えーと、俺現代のフォーリッシュ及びフォロッド城はパスしまあす。やることあるので」
「え?」

いきなりの言い出しに心底謝罪する気はある。またマリベルが怒るかなあ。でも行きたくないというのが本音だ。店への顔出し、アルス宅に押し付けた荷物の整理、アンドモア。実はやることが結構あったりする。そうは言っても、大半は休養目的なのだが。まだまだ、実戦に使えるほどタフではないことが今回の件でよくわかった。

「ふん、いいんじゃない。あんたがいないと清々するわ」
「レツは来ないのかー」
「うーん、俺はレツの用事を尊重するけど、アルス、どう思う?」
「うん、まあ、大丈夫じゃないかな」
「オー!ありがとう!みんなだいすき!とりあえずフィッシュベルにはついてくよ」

一番には、ドレスの半数を処分することを優先させよう。今までより出勤日数は確実に減るし。どうぐやに持っていけばいくらかで買い取ってもらえるだろう。それをパーティの活動費にあてるも良し、おいしいものを買うのも良し。俺は、アミットまんじゅうが食べたい。


20150730







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -