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Arus side
酒場の扉を開くと、以前とは違い客は少なかった。チリン、と鳴るベルの音に反応して、黒のドレスを着た人が振り向く。
「あ、アルスくん、来てくれたんだね。こっちどうぞ」
促されるままカウンター席につく。ジュースとフライドポテト山盛りを出してくれた。
「言っても酒場だから、本格的な料理は高いんだ。これは奢りだからね。せっかく来てくれたんだしこれくらいしないと。あがれるまでもう少しだから、何かお話しようか」
「ありがとうございます。いただきます」
食べてみたらそれは少し冷めていた。
「で、何か聞きたい事はある?ないのなら、一方的に喋るけど」
「何か、占ってくれませんか」
あえてそう言った。以前聞いた話は、記憶、だと言っていたが。占いとも称せるのなら。ほんの少しだけ嫌味も混じっているのかもしれない。
「うーん、言い訳をするようだけど、わかることとわからない事のぶれ幅が酷いんだよ。偏った事しか答えられないと思うけどそれでもいいなら。アルスくん自身のことか、キーファくんか、マリベルちゃんか、ガボくんか」
さらりと言ってのけたがガボの存在さえ知っているらしい。ほんのつい先日仲間になったばかりなのに、人伝に情報を得ているのだとしたら、それは早すぎる。本心を掴ませないようにするためか、いつも笑っているその表情が、挑発にも思えて少し、少しだけ悔しい。これでは弄ばれているも同然だ。
「何ならこの先、一緒に旅することになる人の事を占ってもいいよ?」
「……じゃあ、キーファで、お願いします」
こほん、とわざとらしい咳をして語り始める。
「結婚……するね。お相手の方とはまだ出会ってない。芸事が達者な方だね、きっと美人さんだ。少し気が強いかもしれないな。子供は二人かな?男の子と女の子……」
そこまで言ったところで店員から声がかかる。
「レツさん、あがりの時間ですよ」
「ありがとうございますー。おつかれさまでしたぁ」
ふっとこちらを向いてにこりと笑いかける。
「じゃあ続きが気になる人は部屋、行こうか。濃い話しようよ」
140421
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