08


Arus side


部屋の隅から顔を覗かせたのは、苦手視している人。他でもないレツさんだ。声もかけずに人の部屋を覗くなんて。見られて困るようなものを置いていたり、そんな行動をしているわけではないのだが。
レツさんの行動や言動は目立つ。それの節々にどうも疑わずにはいられないというか。具体的に何を疑っているのかは自分でもよくわからないが、とにかく一言で表すと胡散臭い。

「や、どうも。ねーえアルスくん、ちょっとお話いいかな」

一度疑いだしてしまえばこの誘い方でさえ、良からぬ方へ考える。

「……どうぞ」

ありがとねー、そう言いながらもそもそと梯子を上ってきて一切躊躇する動作を見せず机の隣に腰を下ろす。自分もそれに合わせて対面するように座る。

「えっと、お話ってのはね……ぶっちゃけ今どこまで攻略進んでます?」

小声で話す、攻略、とは。

「オルフィーって町、知ってる?」
「いえ、知りません」
「んじゃあ、ダイアラック辺りか……?」

独り言のように小声で呟いたそのダイアラックという言葉には確かに覚えがあった。正確には地名、町の名前だが。何故それを知っているのか。知り得る筈がないのに。たとえば自分達がエンゴウに行っている間にダイアラックへ行った……?そんな事はありえない。もしも、ダイアラック跡地が出現した事を知っていたとしてこの人ひとりが船を動かす事なんていくら他人を伝っても不可能なことだから。

「どうして知ってるんですか」
「何が?」
「町の名前です。あそこに今、町はありません。あったのは、昔の話です」
「知ってるよ」
「じゃあ、どうして」
「現在じゃなくて、過去の話をしてるから。現在風に言うなら、シムじいさんのところとか?」

遮るように言い放たれたそれはこの人の口から出てはいけないような、そんな事実。
過去を、知っているのか。現在のことも、知っているのか。考え難いが予知能力?ここまできっぱり事実を述べられると、信じてしまいそうになる。
もしそうならばこれから自分達が行くであろう過去の世界のことも?もしかすると時の流れの順序さえも?

「っ……あなたの聞きたいこと、質問に全て答えます。その代わり、僕にも質問させてください」
「いいよ。と言っても俺もう何も聞くことないけど」

自分はきっと真面目な顔をしているのに、レツさんの表情は変わらない。真剣みなんてものの欠片もない。普段と全く同じ。

「どうして貴方はダイアラックの名を知っているのですか?僕の考えが浅いのか、特別な方法をとってでもあの島に貴方がたどり着いて更にそんな情報を得るなんてできるわけがない」

用意されてある台詞を読むように

「占いだよ、占い」

表情に変化なし。へらりとしている。

「嘘ですよね。……エンゴウという地で凄腕の占い師に出会いました」
「パミラさん?あ、面識はないけどね」

またか。このことさえも眼中に収まっているのか。どこを基準に情報を仕入れているのか。

「そうです。その方の予言でさえ、そんな具体的なものではありませんでした。貴方にそれ以上のチカラがあるなら証明してください」

少し困った風な顔をして頭をかりかりと掻く。

「チカラ、なんてものはないよ。言うなれば記憶……俺に能力があるとするならば記憶?が正しいかな?うーん」

記憶する、いや、記憶している事がチカラということなのか。では占いというのは、仮称。本人さえ把握しきれない状態にあるのかもしれない。

「貴方は、過去から来た人間ですか」
「違いまーす」
「ここに何をしに来たのですか」
「家や家族から逃げるため」
「そんな一般人がどうしてそんな、何でもわかるような占いができるのですか。占いと言うのも変だと思いますが。出生に何か秘密があるんじゃないですか」
「聞きすぎ、ちょっと待って」

今度は少し悩んだ風にうーん、と首をひねる。そこで悩む事は何も無いだろうに。本当に掴めない。

「俺はただのウッドパルナ出身の酒場の女装店員。それ以上でもそれ以下でもない。で、俺が持つチカラも、今このタイミングで教えるつもりはないかな」

きっと信じてもらえないだろうから。なんとなく自分の事を理解しているということか。それが全て芝居だとしてもおかしくはないけれど。

「他に聞きたいことは?」
「……ありません」
「そう、じゃあひとつだけ。次は緑の台座だっけ……石板を介して行く先にある町は、さっき言ったオルフィーというところ。伝説の白いオオカミに出会えるといいね。ここから先は俺の独り言」

そこ、攻略し終わったら俺の所に遊びにきてね










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