一夜明け、昼を少し過ぎた頃に、遙はまたしても、銀翅のもとへ向かいました。
「やあ、また来てくれたのだね。――有難う、遙。」
「うん。」
遙は、銀翅ににこりと微笑むと、昨晩思い浮かんだ疑問を銀翅に問いかけました。
「…あのね、おとうさん。おとうさんのほねをおうちに持っていけば、おとうさんはおうちにこれるの?」
「…、ふむ。」
遙に突然質問を投げかけられた銀翅は、面食らう様子もなく、少し考えてから答えました。
「…そうかもしれないね。けれど、お前に私が運べるのかな?」
「あ、そうか。う〜〜〜〜〜〜〜〜ん………」
遙は、銀翅の真似をするかのように、腕を組んで考え込みます。
しばらく、二人して考え込んでいましたが、妙案を思い付いたのは銀翅の方でした。
「――嗚呼、そうだ。それなら、この風車を使おう。」
「…?」
「少しばかり、私と同じ地に立ったのだから、移り易いと思うよ。…ああ、お前にはまだ難しい話だとは思うけれども。」
「…? ??? うん、わからない。」
幼子ならではの素直な様子に、銀翅は朗らかに微笑むのでした。
「少し、手伝ってくれるかい?」
その笑顔のままで、銀翅は遙に頼みます。
「うん!」
遙も同じように、笑顔で応えるのでした。
遙は、銀翅に言われたとおりに、傍らの家の中へと向かいました。
そして、銀翅の血痕のついた服の一部を破り取り、風車に括りつけます。
「――そう。よく出来たね、有難う。あとは私がやるから、離れていなさい。」
「うん、わかった。」
銀翅は、風車に近寄ると、指で印を結び、何やら呪を唱えました。…しかし、なかなかうまくいかない様子です。なぜうまくいかないのかは、銀翅本人にも解らない様子でした。
何度目かの失敗の後、銀翅が呪を唱えるのに合わせ、遙は共に祈りを添えました。すると、布が媒介となって、銀翅の魄が――一部ではありましたが――風車に移りました。
「…! ほう…。どうやらうまくいったようだ。」
これには銀翅も驚いた様子で、遙を褒めました。よくわからないけどちからになれたみたい、と、遙は誇らしげに微笑みました。
「さあ、あとはこれを持ち帰ってごらん。きっと私はお前の傍にいられるだろう。」
風車を指し、持ち帰ってよいと頷いた銀翅でしたが、遙はその言葉に疑問を感じました。
「…? おかあさんの、そばには…?」
「…。お前は察しがいいね。」
遙の言葉に、銀翅は少し複雑そうな顔をしながら微笑みました。
「…十六夜が信じれば、或いは顕れられるだろう。」
「…、そっかぁ。おかあさん次第ってことかぁ。」
「そういうことだね。」
「…。わたし、がんばるね!」
遙は、少し寂しそうな微笑みを浮かべる銀翅に向かって、元気よく言いました。
「そこまでしてもらうと、さすがに心苦しいねぇ…。」
申し訳なさそうな顔で、銀翅は言います。
「うぅん。私が、おとうさんとおかあさん、仲なおりしてほしいから。」
――だから、気にしなくていいんだよ。と、遙は笑顔で言い切りました。
「…。…………」
そんな遙が眩いかのように、銀翅は目を細め、遙の頭を優しく撫でるのでした。
「…おとうさん、やさしいね。」
遙も嬉しそうに、銀翅に笑顔を向けます。
「――お前ほどではないさ。…さぁ、急がなければ、帰りつく頃には日が暮れてしまうよ。」
「うん。」
遙は、そっと地面から風車を引き抜くと、銀翅を伴って家路につきました。