惚れた弱味
「おかえり」
夜、家でまったりとした時間を過ごしていると任務が終わった彼女が帰って来た。
よほどハードだったのが、土や埃がすごい。
それでも怪我はしていないようで一安心。
お風呂出来てるから、入っておいでよと一言伝えるとコクンと頷いて姿を消す。
ここ最近多忙で、少し疲れた顔をしていた名無しさん。なので労いの意味も込めてケーキを買っておいた。
甘い物が大好きな彼女は喜んでくれるかな?
お風呂上がり、大きな苺が乗ったケーキと温かい紅茶を用意した。
「ケーキ!」
「疲れた時は甘い物、なんだろう?」
「嬉しいサプライズ…!」
案の定、彼女の顔はいつになく嬉しそうで。
ボクはその笑顔に癒される。
些細な事かもしれないけど、君が笑えばそれで幸せなんだ。
暗部時代の自分からは想像出来ないくらい、人間味に溢れていると実感。
「チョコレートもあるから」
「ヤマト…大好きっ!もう、一生ついていく!」
「はは、現金だなぁ」
今は夏でお風呂上がりの彼女にとっては熱いかもしれないが、温かい紅茶はケーキには合うだろう。
ついでだからボクも頂く事にした。
「あれ、熱いの飲むの?」
「うん、なんで?」
「いつも冷えたの飲んでるから」
「そうだっけ?…って、何してるの名無しさん?」
向かい合わせのテーブル。
自分の紅茶を用意して座ると、彼女がいきなり手を伸ばしてきて…紅茶のカップを掴む。
そして、フーフーと息を吹き掛けていた。
この光景はあれだ、母親が小さい子に向けて火傷しないように冷ましてあげるというものに似ている。
ボクは子供じゃないし、何故名無しさんがそんな行動を取っているのか理解出来なかった。さらに次の言葉に唖然となる。
「え、ヤマトって猫舌でしょ?だから冷ましてあげようかと」
「ね、猫舌…?」
「うん」
開いた口が塞がらない。
その間も、フーフーと吹き掛けて紅茶の温度を下げようとする彼女。
これは、もしかして…ボクが猫みたいな目をしてるからとか?
「フーフー…。うん、ちょうどいい温度になったと思うよ、はいどうぞ!」
「…」
ちょっと腑に落ちないけど、ボクを想っての行動には変わりないし、何よりもその笑顔が可愛くて。
どうでもよくなってしまう。
「飲まないの、ヤマト?」
「…あぁ、ごめん。頂くよ…うん、飲みやすい、ありがとう名無しさん」
ボクは心底、彼女に弱い。
それは、きっと惚れた弱味。
fin
20150606
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