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罪と愛


深い暗闇の中。
ボクは一人、歩いていた。

進めど進めど、道は開かない。

ここは一体何処なんだ。



「――ト」



視界が働かない分、聴覚が何時にも増して敏感になっていた為、普段なら聞き取れない程の小さな声が聞こえた。
誰の声かは分からなかったが、ここにいても状況は変わらない。ひとまずその方向へ向かった。



「っ…!」



どれくらい進んだのか、いきなり視界がクリアに開けた。眩しい、まるでこの世のものではないほどに。

もしかすると自分は死んでしまった?
それならば、納得は出来る。

だが、先程の声は…?



「…ヤマト」

「!…名無しさんかい?」



はっきりと聞こえたその声の主は、ボクが想いを寄せている女性。
後ろ姿が見え、ゆっくりとこちらに振り向く彼女。



「!!」

「…痛い…っ、痛いよ…」

「名無しさん…名無しさん…!!」


 
彼女は血塗れだった。
透き通るような白い肌は見る影もなく、ただただ赤で染まっていた。
ぐらりと身体がよろめき慌てて支えるが、それはもう生気を宿していなかった。



「どうして…!!っ…!?」



また声が聞こえる。
それは脳内に直接響くもの。
 


【お前が殺したんだ】



殺した?
ボクが誰を…

名無しさんを?



「うっ…あ…げほっ…」



手を見ると彼女の血で真っ赤になっていた。
気持ち悪くなり、嗚咽が出る。

殺した…
いや、違う。

ボクは彼女を、名無しさんを…助けられなかった?









 



「…うぁぁぁぁ!!??」



意識が覚醒し、飛び上がるように起きた。
そこで、始めて気づく。
今までのは夢だったんだと。



「ゆ、夢…はぁっ…はぁっ」



見る限りここは病院。
思い出せ、どうしてこうなった?



「そうだ…ボクは…」

「…ヤマト…?」

「…!」



カーテンで仕切られた向こう、手を伸ばし開ける。

そこには包帯が全身に巻かれた彼女がベッドに横たわっていた。
恐る恐る近づき、血色の悪い頬を触る。



「…目、覚めたんだね…」

「っ、名無しさん…済まない…ボクが!!」



全てを思い出す。

あの時ボクらは任務についていたんだ。
すると移動中、急に霧が発生し視界が悪くなった。
慎重に行かなければならないと思った矢先に迸る殺気。後ろを振り向くと同時に、見知らぬ輩が刀を振り上げていた。咄嗟にクナイを持ち応戦するが濃霧の所為で反応が遅れ、その太刀筋はボクを的確に捉えていた。

経験から分かる、これは致命傷だ。

同士討ち覚悟で、せめて彼女だけは守らなきゃ…



【ヤマト!!】

【…なっ…!】



張り詰めた声と、目の前に飛び出る姿。
全てがスローモーション。



【あぁぁぁぁっ!!!】

【…!!!うぁぁぁっ、木遁っっ!!!】



ボクが受けるはずだったそれを身を呈して庇う彼女、背中から血飛沫が舞う。
胸に倒れる身体を受け止め木遁忍術を発動、相手を葬り去る。

すぐさま大量に流れ出る血を止血しつつ、無我夢中で里への道を駆けた。
そこからの記憶は曖昧、どうやら意識を失っていたようだ。



「謝らないで…ヤマトが無事なら…それでいい…」

「っ!ボクなんかの為に君がそこまでする価値なんてないだろうっ…!?」



自分が一番守りたかった人。
守るどころか、守られて…挙げ句の果てに大怪我を負わさす。

忍としても、人としても、男としても、なんて無様で最低な事をしてしまったんだろう。

涙が溢れた。



「…価値…ならあるよ、だって…私、ヤマトが大切で…死んで欲しくなかったの…」

「それなら…ボクだって…!!ボクだって、君が大切で…名無しさんを守りたかったんだ!」

「そっか…じゃあ…これからずっと私を守ってくれる?」



頬に溢れ落ちた涙を拭ってくれる彼女の手。

泣きたいほど痛い思いや、辛い思いをしているのは名無しさんの方なのに、ボクは本当に情けない。



「ボクでいいなら…ずっと、君を守るよ…」

「…いいの?こんな怪我して…もしかしたら…もう、前みたいに動けないかもしれないんだよ…?」

「名無しさん、今となってはだけど…ボクは君がずっと好きだった。だからこうやって君の傍にいれる事がとても幸せなんだよ。例えもう忍が出来なくなっても…名無しさんは名無しさんだろう?何も問題ないさ」

「っ、嬉しい…一生…離れないでね…?」

「もちろんさ…」

「キス、して欲しい…な」

「喜んで」


寝ている彼女の唇にそっと触れる。

ただ触れるだけで終わるはずもなくて、軽く啄んだ後に角度を変えて舌を射し込む。
それに気付いた名無しさんも唇を開けて受け入れる。お互いの舌が絡まり合い、静まり返った室内にピチャピチャと厭らしい水音が響く。



「ん、ちゅ…。続きは…退院してから…君とボクの新しい家でね?」

「…ふぁ…ん…。私たちの新居…?」

「そうだよ、楽しみにしてて」



思わぬ形で想いが通じ合った。
それでも彼女を守れなかった事に変わりない。

ボクは一生その罪を背負っていくだろう。

愛する気持ちと共に。



fin
貴方の全てを愛故に】続編。病みヒロイン。
20150616




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