隙間にでさえ
よくある話。
自分が想いを寄せる人に、彼氏がいる。
大抵の人はそこで諦めるか、玉砕覚悟で突っ込むかだろう。
ボクはどうだろう。
まず、それより…その相手が問題だ。
「あれ、名無しさんさん?」
「ん?あぁ、テンゾ…じゃなかった、ヤマト」
昔の癖は、中々取れないね。
と、頬をかき苦笑する。
待機所でばったりと出会った彼女とは昔、暗部で共に戦った仲だ。
といっても彼女はボクよりも年上で、さらに暗部としての立場も上だったの未だにさん付け。
そして、ボクより少し前に正規部隊として任務につき里に貢献している。
「任務終わったんですか?」
「うん、そうそう〜今日はAランク任務が立て続けでね、ったく綱手様、人使い荒いわ…」
「はは、その気持ち分からなくもないです」
美人なのに気さくで、要領も良く、実力だって計り知れない。
そんな名無しさんさんと過ごして来たボクにとって、特別な存在になるのに理由はなくて。
そう、ボクの想い人は彼女だ。
「ヤマトも任務終わったんでしょ、帰らないの?」
「帰ろうと思ったんですが…ちょっと気が変わりました…。良かったら、今からご飯でも食べに行きませんか?」
「あー、ごめんヤマト!今日は今から…」
「今からオレとデートってわけだよ、悪いなテンゾウ」
「だから今はヤマトですって…」
ぼふんっと煙が舞い、そこに現れたのはボクの尊敬すべき人であるカカシ先輩だ。
呆れたようにお決まりの会話をし、ため息。
このため息の意味なんて、きっと理解していないだろう。
「先輩とデートだったんですね。名無しさんさん、すみません誘ってしまって」
「別に謝る事ないって、今日は先約があっただけだから…次はご飯食べに行こっ?」
「ちょっと名無しさん…オレがいる前で、他の男にお誘いするってどーよ?」
「なになに、嫉妬かな、カカシくん?」
「あー…はいはい、もう行くよ、名無しさん!」
「ふふふ。じゃあまたね、ヤマト!」
「…ええ、お二人ともまた」
ボクの想い人の恋人はカカシさんだ。
まぁ同じ暗部だったし、正規部隊になってからも一緒に任務をこなしていたと聞くし。
昔から二人は息がピッタリで、難易度が高くて危険な任務は常にセットで行っていた。
そんな二人が恋い焦がれ同士になるのだって不思議じゃない。
ボクが彼女を好きになったと、同じでね。
「何か惨めになるなぁ」
さっきだって、ボクをフォローして食事に誘ってくれたけど…
「直後にあんなの見せられたらね…」
彼女の中には、カカシ先輩しかいない。
カカシ先輩で溢れてる。
もちろん、先輩もそうだろう。
ボクの入る余地なんてないのは痛い程、理解しているさ。
「今日は自棄酒だっ…!」
そうして朝まで飲み老けて、翌朝二日酔いで任務に四苦八苦するのはまた別のお話。
fin
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