×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
 


07

「……頭がついていかんな」


朝、いや正確には早朝だ。
彼女を早く落ち着かせてやりたいと思ったボクは、失礼と思いつつも陽が昇ったと同時に火影邸へと足を運ぶ。
寝起きということもあり、かなり機嫌は悪い。門前払いされるかと思ったが、こちらの真剣な面持ちに気付いた綱手様は渋々中に入る事を許可してくれた。

まずは第一段階クリア、そして本題だ。
数時間前にあった出来事をくまなく伝える。


「…今言った事は全て事実です」
「ふむ…」
「綱手様…っ、黙っていて…申し訳ありませんっ」
「分かった上で黙っていたのか?」
「綱手様、それは違います。言葉のあやです。名無しさんは黙っていた訳でも、嘘を付いた訳でもなく、ただ知らなかったんです…!」


震える名無しさんの手を掴みながら、ボクは必死に彼女の真意を伝える。


「覚醒で全てが分かった…と」
「そうです、昨日初めて彼女は自分が吸血鬼の末裔と知りました。確かに血を欲しますが、それは常時ではなく…。そ、それに覚醒した名無しさんが舐めた傷口は治癒する力があり…!」
「落ち着け!」
「っ!」
「ふぅ、何ださっきから聞いていれば…私が名無しさんを処分するとでも?」
「…しないんですか」


今まで黙っていた彼女が、少し驚いた顔をして聞き返す。


「逆に聞く、何故そう思う?」
「だって…異端そのものじゃないですか…」


唇を噛み締めながら、か細い声で呟く。
その姿は今にも命を絶ってしまいそうだった。

ここに綱手様がいないなら、ボクはすぐさま名無しさんを抱き締めていたに違いない。
今だって、抱き締めて優しく声を掛けて慰めてやりたい。
そんな感情をグっと抑えていると、この場に似合わない高笑いが聞こえた。


「ハハハ!!忍なんて全員異端だ!な、そうだろヤマト?」


このタイミングで話を振られるとは。

確かにボクは異端だと思う、幼き頃の人体実験で初代火影様の遺伝子を埋め込まれたんだから。


「まぁ、そうなるのかな?…うんでも、そうかも知れないな…名無しさん、ああ見えて綱手様は50歳過ぎてるんだよ」
「…えっ!?」


まさかのカミングアウトに、さっきより目を見開き驚く名無しさん。

その顔がおかしくて、ボクは軽く笑む。


「…お前、休みなしでSランク任務回してやろうか?」
「す、すみません!それはご勘弁を…」
「ったく、まぁそういうこった。今更異端なんてもん、どうってことないんだよ。ただ、現時点で分かりうる情報全て吐いてもらうからな、名無しさん」
「はい…」  
「ヤマト、お前は下がれ」
「…はっ」


本当は一緒にいてやりたかったけど、今は彼女本人の口から話さなきゃいけない。
何も出来ない自分がもどかしくなって、ただ時間が過ぎるのが遅く感じた。



***



「大体分かった、ちなみにお前は戦えるのか?」
「どうなんでしょう…覚醒してから、何かこう…身体の中にあったかいものを感じるようにはなったんですが…」
「ほう…それはチャクラだな…。ところで…さっきあいつが口走っていたが、傷口を治癒する力があるのか?」
「えっと、多分…?その、私が覚醒した時に舐めとった傷なら…。正直、まだハッキリと自分の力は分からないです、すみません…」
「そうしょげるな、責めているのではない。…ヤマト、入っていいぞ」


長かった、いや決して長くはないんだろうけど。彼女を見ると、まだ少しだけ浮かない顔。
それでもここに来る前に比べたら、断然よくなって安心した。


「それで彼女はこれから…」
「あぁ、ひとまず名無しさんには医療忍者になってもらう」
「…えぇ!?」
「まぁ医療忍者までいかなくても、医療を叩き込んでやろうと思ってな。聞けばチャクラを感じるようにもなったらしいし、何より傷口を治癒血をする力があるなんて、素晴らしいじゃないか!」


確かに素晴らしい。
医療忍者はチャクラのコントロールが難しい上に、膨大な知識も必要で中々育たないので常に不足している現状だ。

そんな中に突如現れた名無しさん…

というより、チャクラを感じるようになったのは初耳。やはり潜在的能力が目覚めたのか…って、冷静に分析してる場合じゃない。
彼女もボクもあまり触れたくないだろう部分を切り出す。


「で、でもですね…舐めるんですよ?」
「それはあくまで急を要するときだ。知識や、チャクラコントロールが上手く出来ていれば治療は出来る」
「そ、それでも」
「ヤマトさん、綱手様…!私、やってみます。医療忍者っていうのが、まだどんなものかサッパリ分かりませんが…私、今まで人目ばかり気にして生きてきた、そんな生活もう嫌っ。自分を鍛えて、自分で自分を守れるくらいにはなりたい。そしていつか…人を、里を守れるような忍になりたい!」
「ふっ、決まりだな」


そこまで強い決意したなら、もう何も言えない。
それでも君を守っていきたいと、ボクは心の奥で呟く。


「あ…でも綱手様…その。や、ヤマトさん…っ…」
「ん、実践の方が早いかな…ほら、名無しさん」


そう一つだけ難点。 
ボクは指を噛み、そこから滴る血を名無しさんに見せる。
すると途端に雰囲気が変わり、深紅の瞳をした彼女現れる。


「綱手様、これが覚醒した名無しさんです…。ほら、舐めていいよ?」
「んっ…はっ、やん…美味しい…ちゅ…」


両手で包み、指を咥える。
何度も舌を上下に動かし、滴る血を堪能する名無しさん。

ある意味、痴態を見せ付けているようなもの。
綱手様の前で何をやってるのか…
恐れ多い気持ちと恥ずかしさが入り交じる。
だけど、ちゃんと今の彼女の状況を知ってもらわなきゃ。


「んー…これだけじゃ物足りなぁ…もっと…」
「はい、ストップ…!」


被りつく気だ!
残念、二度目は食らわないよ。
なんせ綱手様の前だしね…

木遁で名無しさんの身体を包み込む。


「……っ、あ、私…」
「綱手様、ご覧の通り…彼女はまだ覚醒モードをコントロール出来ません。ただ純粋に血を欲しがるだけです」
「何かのプレイかと思ったぞ」
「綱手様…っ」


顔がヒクつく。

本当は更にこの上、歯を刺して直接吸われます…は、言わないでおこう。
下手をすれば見せてみろといわれそうだし。


「名無しさん、今解くね」
「事情は分かった。よし…チャクラを練る事も大切だが、まずは自身の力をコントロール出来てこそ、修行だ!名無しさん、血に慣れろ。来るべき時に備え、覚醒したとしても自我を忘れず血を舐め治癒に専念出来るようにしろ!」
「は、はい…!で、でも誰の…」
「適任がいるだろ?ヤマトがお前の実験体だ。名無しさん、これが出来なきゃ、お前の路は開けない。心してかかるように!ヤマトには後で増血剤を渡すから心配するな!」


ちょっと、実験体って宣言しちゃってるよ?
何だろ、ボクって実験体とかに縁があるのかな。


でも処分を免れた事は本当に良かった。
まさか名無しさんが医療忍者としての路を歩む事になるなんて思いもしなかったけど。
これまで通りにひっそり生活するものばかりと思っていたから、驚きは倍増。

幾度も口を挟んだのは実力や才能、はたまた向いてないからというわけじゃなくて…
ただボクから旅立ってしまうようで、寂しかった。
そんな事、口が裂けても言わないけど。


「…は、はい!!!ヤマトさん、是非私の実験体になって下さい…!!」
「…ハハ…ボクの意見は無視ですよね、そうですよね…」


それよりも、新たな問題が立ちはだかる。


さて、これからどうなるのか…
とりあえず冷や汗が止まらない。



一部 end
next ご挨拶と補足





[back]
[top]