×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
 


06

女性が泣くのは好きじゃない。

特に、君の泣き顔なんて見たくない。
君には笑っていて欲しいんだ。


「っ…?」
「や、ヤマトさんっ…!」
「…名無しさん!?」


頭がグラグラした。
でもそれより、ボクから距離を取りガタガタと震えて涙を流す彼女がいたのですぐさま駆け寄る。


「ヤマトさ、わ、…私…ぁ、ご、ごめんなさ…」 
「落ち着いて、ボクはもうこの通り平気だよ。なんともないから…。ね、こっち向いて?」
「ひっく…」
「…うん、名無しさんだね」


頬に手を添えてこちらを向かす。
そこにあるのは、真っ黒の瞳。
大粒の涙を流し続けている、真っ黒な瞳があった。
名無しさんだ。紛れもない、彼女だ。
ぎゅっと、強さく抱き締めて存在を確かめる。

それでも、ケジメはちゃんとつけなきゃいけない。


「…さっきの事、覚える?ボクの…首元にかぶりついて、血を吸った…」
「…っ、はい…」
「…事と次第によっちゃ、君を始末しなきゃいけない。だから」
「わ、私!全部話すから…!!だ、だから」
「うん、話は最後まで聞くから…」


身体を離すと、名無しさんは語り始める。


自分は吸血鬼の末裔だと。
だからといって、通常の人間となんら変わりなく太陽にあたっても平気だし、食事も普通にとる。経験したことはないが、自身があまりにも血を流すと、それを直接相手の血で補うとか。
そしてここからが、今までの行動と繋がるもの。彼女は本能的に強い男の血に惹かれ、深紅の瞳となって血を欲する。いわゆる覚醒。 


やはり予想した通りだった。

世界は広い、自分が知らないだけで、こういった末裔がいてもおかしくはないだろう。
だけどたまたま書物で存在を知り、目の前にその本人がいても、それをすぐに受け入れる程ボクの頭は柔らかくもなくて。


「…二重人格なの?」


その質問にフルフルと首を横に振る。
あくまで彼女自身。
吸血鬼の本能がそうさせるらしい。


「ごめんなさい…」
「…どうして、黙ってたんだい?最初会った時も、君は覚醒したはずだ」
「…分からなかったの…自分が吸血鬼の末裔って事さえも」
「…」


どうやら今回ボクの血、正確には強い男の血を大量に吸った事がキッカケで、潜在的に眠っていたものが完全に覚醒され、そこで始めて記憶は共有されたらしい。


「ごめんなさい…ごめんなさいっ!私!!」
「…落ち着いて」
「はぁっ、はぁっ…!くっ…はぁ」


まずい、過呼吸だ。
ヒューヒューと苦しそうに吐息を漏らす名無しさんの背中を優しくさすりながら語る。


「名無しさん落ち着くんだ、落ち着いて…息をゆっくり吸って」
「はぁっ…はぁっ…!!ヤマト…さん、っ…ステナイで…コロサナイで…!!」
「………」


彼女の両親は知っていたのだろうが、自分達がそういう末裔だと。きっと知っていたんだろうとボクは思う。理解していたからこそ、人目を極端さけて生きてきたんだろう。今となっては知る由もないが。

しかし、名無しさんには何も伝えて無かったのは今の様子を見れば明確だ。今まで見た目が一際目立つだけだったのに、自分は吸血鬼の血を継いでいる。
覚醒して、始めて全ての真実を知るなんて…


どんな心中なんだろう。


「…さっきは脅すような事言ってごめんよ、名無しさんは何も悪くないって事、もう分かったから」
「はぁっ…はぅっ…あ」
「ちゃんと綱手様に話そう」
「こ、怖い…っ…」
「ボクがいる、君の全てを知ったボクが傍にいる。それでも不安かい?」
「っ…捨てないの、殺さないの、怒ってないの…!?」
「質問攻めだね、捨てないし、殺さないし、怒ってもいないよ?だからひとまず泣きやんでくれないか?」
「うっ…ヤマトさん、ヤマトさん…!」


抱き締め、子供をあやすように背中をさする。



***



「落ち着いたかい?…あぁ、目が真っ赤だね」
「こんなに泣いたの始めてです…でも、お陰で落ち着きました」
「そっか…よし、じゃあ綱手様の所に…っとまずボクは服を着なきゃね」 
「…っ」
「…照れてるの?さっきまでボクら抱き合ってたんだよ」
「っ〜〜!」


そうさ、君には泣き顔なんて似合わない。

からかいながら、自分の部屋へ行き予備の服を手に取る。


「あれ、そう言えば…傷治ってる?」


肩から胸にかけての刀傷に触れる。
確か、覚醒した彼女に傷口を開かれたはずなのに。


「もしかして…名無しさん!」
「きゃ…ヤマトさん、まだ服着てな…!」
「ごめん、ちょっと…」
「…!」


慌てて名無しさんの傍に行き、自分の指先を唇で噛み血を滴らせる。
深紅の瞳の彼女が現れ、無言でそれを舐めとる。

二重人格ではないと言っていたが、覚醒した彼女は普段の彼女と違って大人の女を醸し出す。
無心に舐めとりつつも、時たま上目でこちらを見るのは反則だよ。


「も、木遁!」
「…!……っ…」


拘束は可哀想だったけど、飲み込まれる前に制止させる。あぁ、心臓に悪い。

そして先程まで舐められていた指先を見ると。


「やっぱり…」


傷口は綺麗に塞がっていた。


そこで一つの仮説が生まれる。
覚醒した彼女が舐めた傷は、治る?





[back]
[top]