05
冷静な判断が出来ない。
それでも、しなくちゃいけないんだ。
「…誰だ…」
「ふふふ…」
「笑ってるだって…!?名無しさんは、何処に行った…?っ、お前が何かしたのか…!」
声を荒げ、口調さえも変わってしまってた。
それほど、この状況に動揺している。
「さぁねぇ…?」
深紅の瞳がボクを捉え、動かない身体に触れる細い手、巻かれた包帯にそってすすっと、指を這わす。
その姿は、妖艶で…
ゴクリと生唾を飲む。
「っ…」
「…分かる事が一つある…私は強い男の血が…大好き…」
「!」
そこからは、あっという間。
包帯に手を掛け、力任せに引きちぎられる。
そして現れるのは、塞がった刀傷。
鈍い痛みが襲う。
何かと思ったら、そこへ爪を立てられ、傷口をいじられる。完全に完治していなかった其処から、赤い血が滲み出る。
「…美味しそう…」
「っ!!」
傷口から滴り落ちていく、血を舐めている。
あの時と同じだ。
やはり夢でもなく、あれは現実だったのか。
ねぇ名無しさん、君は何者なの?
事と次第によっちゃ、始末しなきゃならないよ。
「はぁ…やっぱりあなたの血、美味しいっ…」
「ぅ…」
舐めては爪を立て、傷口を広げて、また血を舐める。敏感な胸元に這う舌、わざとなのか乳首あたりを執拗に責められた。
飲み込まれそうになる意識を呼び戻し、手を掴み制止させる。
「…ん、なに…」
「君を…今から拘束して、綱手様に引き渡す…」
「……ヤマトぉ…」
「!」
フワッと抱きついてくる軽い身体と、首元に埋める顔。
「ヤマトの血は濃厚で美味しい…だからもっと欲しいの…いただきます…」
まるで悪魔のような囁きと、そして訪れる甘美の刺激。
「うっ、…あっ!!」
「ん…ふ…んん」
一体どうなった、見ると彼女はボクの首に噛みついてた。
そして…血を吸っている?
「ま、さか…ぅあ…」
何かの本で読んだ事がある。
血液を主食にし、生きる種族がいると。
その種族の名は吸血鬼。
空想上のものだと思っていた。
だけど、目の前にいる彼女はまさしくそれに当てはまる。
それ以上は思考が動かない。
なぜなら、先程から快感が止まらないから。
吸われる度にビクビクとした何かが全身を駆けめぐる。
これは、性交渉の時に似ている。
ヤバい、果ててしまいそうだ。
あぁ、どうなるんだろうボクは…
血を全部吸われて死んでしまうのかな?
薄れいく意識、力なく倒れる身体。
そこで見えた彼女。
…あれ、泣いている?
目も真っ黒で…
ふふ、ホントあの時と同じだ。
泣かないで?
ボクは君に泣かれたくないんだ、笑っていてほしいんだ。
「名無しさん…?大丈夫…だからね…」
「…や、ヤマトさん…」
明らかに大丈夫じゃない状況だけど、安心させなきゃと、最後の力を振り絞って微笑み掛ける。
そしてボクの意識は途切れた。
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