04
「はぁ…」
遅くなるとは言っていたが、思っていたよりも時間が掛かり深夜に帰宅するハメになってしまった。
「ただいま…」
物音を立てないように、そっと家に入る。
きっともう寝ていて、返事なんて返ってこないのは分かっているのに零してしまう言葉。
任務そのものはスムーズに運んだが帰還する際に運悪く敵に遭遇し、応戦。
相当の手練れだったのか、少しだけ苦戦してしまい、左肩から胸にかけて斬りつけられた。でもそこから一瞬の隙をつき相手を葬り去る。
傷口は広範囲だが浅く、その場で医療忍術で治癒してもらうとすぐに出血は止まったので、そのまま包帯を巻いて今に至る。
怪我をしてしまったが瀕死の状態になるわけもなく、明日以降の任務に支障は出ないだろう。
パックリと切られたベストとアンダーを脱ぎ捨て、ソファーに座って目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をする。
「…ヤマトさん?」
「あ…起こしちゃった?」
ボクに気付いた名無しさんが遠慮しがちに声を掛け、そうとう眠いのか、目をこすりながら近付いてくる。
「ん…おかえりなさい…」
「あぁ、ただいま」
やんわりと微笑む彼女の髪を撫でると、嬉しそうな顔をする。
あぁ、この空間がすごく落ち着く。
「…あれ、ヤマトさん…包帯してるの…?」
暗闇に慣れてきたのか、包帯に目がいく名無しさん。
「ちょっと任務でね」
「…!!」
狼狽えているのが手に取るように分かる。
彼女と暮らし始めてからは、比較的簡単な任務ばかりこなしていた。それは火影様の配慮だろう。が、ずっとそうもいかない。
ボクは実力もあるから、危険な任務は率先してやるべき立場。
こんな姿を見せるのは早かったと思う反面、知っていてもらわなけばならない。
ちょうどいい、忍には危険な任務が付き物。
ずっと笑って傍にいれるわけじゃないんだ。
君や里を守る為、ボクはそんな世界にいるんだ。
「怪我の具合は…」
「大丈夫。治療はしてもらったし、血も止まってるよ。…不安にさせた?」
「っ…生きて帰ってきてくれて、ありがとう…」
「…どういたしまして」
ボクは思う、どんなに怪我をしたって、君が笑顔でおかえりと出迎えてくれるなら…
死に物狂いで帰ってくるんだろうと。
一人寂しく、家で待ってる君に…ただいまって言う為に。
「そういえばボク、包帯巻いてるけど上半身裸だよ?恥ずかしくないの?」
「…なっ、そういうの時と場合によりますっ!!」
「ふふふ、そっか、てっきり慣れたのかと。さ、そろそろ寝た方がいいよ?ボクは報告書やら、まとめなきゃいけないことがあるから」
「こんなに遅いのに…」
「なら、名無しさんは早く寝なさい」
「…はい…。あ、そういえば忍服は…ハンガーにかけました?」
「あぁ、忍服はボロボロになったから捨てるよ」
そう言って、彼女から離れて血まみれのベストとアンダーをゴミ箱へ捨てる。
「…それ…ヤマトさんの、血…?…っ…そんな、出血してたの…?」
「名無しさん…?」
声の音色が変わった。
すると、うっと小さな呻き声が聞こえ、いきなり膝をつく彼女。慌てて掛けより様子を見る。
どうしたのか、もしかして血を見て気分を悪くした?やはり一般の名無しさんには刺激が強かったのか。
ゆっくりと背中を撫でて、声を掛ける。
「大丈夫?」
「ヤ…マト…」
「…うん?」
「…美味しそう…っ」
「!」
伏せていた顔を上げ、ボクを見る名無しさん。
驚愕した。
何故なら其処には、ボクが危惧していた深紅の瞳をした彼女がそこにいたから。
「ねぇ…ヤマトぉ…」
甘ったるい撫で声。
あの時と同じように、動かない身体。
さっきまで、確かに目の前に名無しさんがいた。
だから彼女に、違いないのに。
…君は、一体誰なんだ。
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