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14

「おはよー名無しさんちゃん」
「……きゃああぁぁ!?」


非番である朝。
特に予定もないので彼女と何処かに出掛けようかと夢現で考えていた、すると名無しさんの部屋から悲鳴が。

その声に一気に眠気は覚め、念の為クナイを持ち慌てて部屋へ駆け付ける。


「名無しさんっ!どうしたの、大丈夫…!!…って…」
「よ、おはよーさん。テンゾウ」
「か、カカシ先輩!?」


まさかの。

名無しさんの部屋には、意気飄々としたカカシ先輩がいた。手にあったクナイが滑り落ち、開いた口が塞がらない。


「なに動揺してんのよ、オレがここにいちゃダメなの?」


ダメに決まってるだろう!

ここはボクの家、なにより今いる部屋は名無しさんの自室。シンプルに統一された室内に似合わない格好の先輩はあろうことか、彼女のベッドに座って頭を撫でている。
ボクでさえこの部屋に立ち入る事なんてほとんどない。その上、ベッドに座るとか…

羨ましい!
あ、いや、失礼だろう…!

そして今はテンゾウでなく、ヤマトだ!


「断りもなく、女性の部屋に上がり込むなんてダメに決まってるでしょう…」
「んー…じゃあお邪魔するね、名無しさんちゃん」
「は、はい!」
「あぁ、もう…」


そこで返事しちゃダメだよ、名無しさん…。
ボクはさっきから何回ダメと言えばいいんだ!

溜め息をつき、ベッドに詰めよって先輩の腕を掴む。


「ちょっとなによ、テンゾウ」 
「今はヤマトです!いつまで女性のベッドに乗ってるんですか?彼女もびっくりしてるし、早くおりて下さい」
「ん、びっくりさせちゃった?」
「ぁ、いえ…!大丈夫です」
「そ?いやぁ、名無しさんちゃんは可愛いねー。頭撫でてあげる」


名無しさん、気負けしないで!
ていうか先輩、さっきも撫でてたくせに。


あぁ、ボクと彼女の平穏な休日よ、さようなら…


***


「カカシさん、コーヒーどうぞ」
「ありがとうね、名無しさんちゃん」
「ヤマトさんも」
「ありがとう」 


埒が開かないので、ひとまずリビングに移動しテーブルに座る。


「名無しさんちゃんも座りなよ」
「わ、私は…」


彼女が狼狽えている。

カカシ先輩がこのタイミングで来たという事は恐らく…


「…オレね、寝込みを襲いに来ただけじゃないのよ」
「先輩…だけって?」
「お前は黙ってて、それでね」


ゆるい雰囲気なのに、逃れられない。
ゆっくりと、追い詰められている。

ボクでそう感じるんだから、彼女はもっとそうだろう。


「な、なんですか…カカシさん」
「…君って、一体何者?」
「っ…!」


殺気。
張り詰める空気が痛い、呼吸さえもままならなくなる。

ボクは慌てて彼女の前に立つ。
逆らうわけじゃないが、これはあまりにも可哀想だ。


「ヤマト、邪魔なんだけど」
「先輩っ、だったらその殺気は収めて下さい…名無しさんにはまだ刺激が強すぎます…!」
「まだ?って事は…やっぱりなにかあるんだね」
「それは…」
「ね、名無しさんちゃん。別に取って食いやしない。ただ君の口から全てを聞きたいだけよ。意味分かるよね?」
「は、はい…っ」 


きっと先輩の事だ、名無しさんがボクの家に住む経緯は調べただろう。其処に火影様の許可があったとしても覚醒した彼女を見てしまった。

この人は心から里の事を思い行動している。だからこそ仇なす者の侵入は許せない。いくら火影様が受け入れようが、自分の目で確かめなければいけないと思ったんだろう。


「じゃあ、全部話してもらおうか?」
「わ、私は……」


殺気は幾分か収まったが、それでもピリピリとした雰囲気に名無しさんは震える。
拙い言葉で、全てを語る彼女。

ボクはなにも出来なかった、ただ見守るしか。


***


「吸血鬼の末裔…ねぇ」
「っ…」


粗方話終わると、少し考えたような仕草をし立ち上がる先輩。

また慌てて彼女を庇おうとしたが、それよりも早く名無しさんの頭を撫でる先輩の姿があった。


「…まさか、そんな事情があったとはねぇ…」
「か、カカシさん…?」


拒絶され、最悪の場合殺されると思っていたのか、未だガタガタと震える彼女。


「なんというか…脅しちゃってごめんね?」
「い、え…いつかは分かる事ですし…それに、今の私はただの血に飢えた化け物…」
「脅したオレが言う台詞じゃないけど…そんな顔しないし、そんな事も言わないの。君は君だろ?化け物なんかじゃないよ」
「…それでもきっと受け入れられない、人は自分と違う者を拒否するから」
「まっ、それは確かに否定は出来ないけど、全てがそうじゃないってことは理解してるでしょ?少なくともオレはそうだし、もちろんヤマトだってさ」
「…カカシさん、ヤマトさん…」


カカシ先輩を見つめた後、こちらを見る名無しさん。不安げな瞳がそこにはあった。


「君の味方だって事、それだけは忘れないでちょーだいよ」


軽い口調なのに、いやに説得力があるのは幾つもの死線を越えた先輩だからこそだ。その言葉は彼女の胸に染み渡り、涙となって瞳から零れ落ちる。

どうやら話は纏まったようだ。
張り詰めていた空気がじょじょに和らいでいく。


「…カカシ先輩、名無しさんを泣かさないで下さいよ」
「あらら〜ごめんね?」


でもそれはきっと嬉し涙。
言葉っていうものは不思議。いとも容易く人を傷付ける事もあれば、こうやって暖かい気持ちにもさせるんだから。

ボクの言葉も、名無しさんをそんな気持ちをさせているのかな?させていたなら、嬉しい。


「さてと、重苦しい話はここまで!話は切り替えて…名無しさんちゃん、ほら」
「…!」
「なっ!先輩っ…」


なにを血迷ったか、ポーチからクナイを取り出し指先を切る先輩。小さな傷口から赤い血が溢れて、彼女はそれに反応し覚醒する。


「ぁ…」
「オレも一応強い男だと思うのよね。だから好んでくれるかなー?」
「ん…ちゅっ」


この人は絶対に楽しんでる。


「えーっと、覚醒したら深紅の瞳になるんだっけ?数日振り、オレのこと覚えてる?」
「はぁ、美味しい…ヤマトとはまた違う血の味…」
「ふむ、まだ意志疎通は無理なのか?」
「…それ踏まえ、コントロール修行を行っている最中です」


あぁ、本当にエロイ。
深紅の瞳と同様のチラつく赤い舌、そして全体から醸し出されるフェロモン。そこんじょそこらの男ならイチコロだろう。

正直、見せたくなかった。
カッとなった感情は消え失せ、ここからどうなるのかハラハラドキドキする羽目に。


「なるほどねー。コントロールって事は、暴走でもしちゃうとか?」
「まぁ…」


ある意味、暴走。
だけどそこは敢えて言わない。


「綱手様はなんて?」


話をしていると傷口は舐め取られ完治。それに気付いた先輩は落ち着きながら今度は反対の指を切り、また血を溢れさせる。

なんていうか、器用だな。ボクならこうやって舐められただけで、しどものぬかしているのに。

あ、もしや情けない事じゃないのこれ?

少し悲しくなりながら、綱手様の下した内容を話す。舐めた傷口を治癒する能力、それを生かし最終的には医療忍者にしたいと。だが今の名無しさんはあくまで強い男の血のみを欲する。それでは前戦に立っても、いざという時に意味を成さない。


「血継限界じゃなかったのか」
「似て非なるものですね」
「で、そのコントロールする修行ってのは?」
「…ボクの血を吸わせ続けて」
「あ、もういいよ、分かった」


色んな意味で言いたくなかったけど、ここまで来て嘘をついても仕方がないので正直に話す。すると、なにかを思い付いたような仕草を見せ驚愕の一言を放つ。


「あのさ、別にヤマトの血じゃなくてもいいわけよね?強い男の血は好むなら、オレだって問題ないよね」 
「は…?」
「うん、決めた。オレも時間がある時には協力するよ。名無しさんちゃん…さ、そろそろ正気戻ろうか?別にずっと舐めててもいいけど、オレねちょっとムラムラしてきちゃったからさ」


軽い口調は変わらないが、さらりと爆弾発言。ユサユサと彼女の身体を揺らし正気に戻させる。


「…んっ……カカシさん…?ぁ、わ、私…!舐めて…っ」
「記憶はあるんだね、じゃあさっき言ったことは本心だから」
「そ、その」
「そんなかしこまらないで。とりあえず今日は退散するよ、またね」


印を結びドロンと消える先輩。


理解者が一人増え、協力者も見つかった。
一歩前進。

だけど心中は複雑。

平静を保っているように見えたけど、最後の最後にボクは気付いてしまった。


「耳が真っ赤だったよね…はぁ」


溜め息が止まらない。


「ヤマトさん…?」
「いや…名無しさん、修行しよっか?」
「…は、はい」


ボク以外の血を美味しそうに舐めたことが恥ずかしいのか、いつも以上に真っ赤な顔の彼女。こんな姿を知っていたのは、自分だけだったのに…ちょっとモヤモヤ。

とりあえず修行をしよう。
でもなんか癪だから名無しさんがボクを求めて血を吸って、ハイな気分になってしまいたい。

そんな慌ただしい1日。





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