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10

修行初日が終わった。
終わったというより彼女が満足して、ボクが意識を失って強制終了というべきか。


「ん…」


ある程度して、意識が覚醒する。
散々と言えばそうだが、最後の最後に頬にキスをされたのは嬉しい事かもしれない。名無しさんの照れた顔も見れたし。
それでも、彼女のペースにもっていかれたのは事実だけど。


「はぁ…身体重い…ん?」


目を開けて、やっと今の状況を把握する。

ボクはベッドにもたれ、布団を掛けられていた。意識が途切れたボクを彼女の細い腕ではベッドへ持ち上げる事が至難の業。
このまま放っておくと風邪をひくと思った名無しさんなりの配慮。

すると、自分の隣でもぞっと動く何かに気付く。


「…名無しさん?」


小さな寝息を立て、彼女がボクに寄り添う形で同じ布団にくるまっていた。
きっと、ボクが目覚めるのを待っていたんだろう。


「…ありがとう」


このまま一緒に寝ていたかったけど、襲わない自信はなかったので静かに抱き上げて彼女の部屋へ。
そっとベッドに寝かして、額にかかる髪をよける。


「おやすみ」


ちゅっと軽いキスをして、自室に戻る。 



***



「ヤマトさんっ!!」
「えっ…名無しさん?」


朝、目覚ましが鳴る少し前に起きて服を着替える。パジャマを脱ぎ、忍装束に手をかけたと同時にバァンとドアが開く音。


「……っ!ご、ごめんなさいーー!」
「あ…うん…」


ボクの今の格好はパンツ一丁。

着替えてると思わなかったのか、見る見る内に顔が赤く染まり飛び出ていく名無しさん。

あれだね…あそこまで反応されると…
さすがにこの格好でいる自分が情けなくも感じるよ。早く着替えてしまおう。


「お、おはよう名無しさん…とりあえずさっきはごめん…?」
「こっちこそ…わ、私がノックしなかったから…」
「まぁまぁ…それより、どうしたの?」
「そ、そうだヤマトさん、身体は…」
「あぁ、どうってことないよ。心配かけちゃった?」
「それなら良かった…目覚めたらいつの間にか自分の部屋で寝てたから、ヤマトさんどうなったのかなって思って」
「大丈夫、そんな柔じゃないしね」


案の定、ボクの身体を心配してこその行動。
彼女の行動一つ一つがボクを喜ばせる。

頭を優しくて撫でて、落ち着かせてやる。


「ん…」
「今日も比較的簡単な任務だから、なるべく早く帰ってくるよ。修行しよう」
「ありがとうっ…!」


いつもより俊敏に動き任務を終わらせて夕方頃に帰宅。
玄関を開けると、美味しそうな匂いがした。
お腹が反応し、ぐぅと音を立てる。


「おかえり、ヤマトさん!先にご飯食べる?それともお風呂?」
「…」


何このシチュエーション。 
それとも私?が聞こえてきそう。

少し前に敬語は止めて欲しいと伝え、一部は丁寧な言葉を使うがそれ以外は大分崩れてきた。一気に親密度が高くなったと、今実感。

ましてや、フリルのエプロン着用。
そこから想像するのは…裸エプロン…

いやいや、暴走しちゃダメだ!


「お、お風呂頂くよ…」


そそくさとお風呂に行き、熱いシャワーではなく冷たい水を頭からかけた。

ボクって、こんな妄想癖だったっけ?  
何かまるで欲求不満というか…
 

「…エロイもんね、彼女は」


今まで名無しさんに対して欲情したことはなかった。というより、してはいけない。
一つ屋根の下で、過ごしていようが彼女はボクを男として意識もしてない。悲しいといえば悲しいが、そんな彼女に対して自分がそんな風になってはいけない。

バカ真面目といば、そうだ。

でもそのバカ真面目なボクだからこそ、名無しさんはここまで心を開いてくれたと思っている。
が、そこに覚醒した彼女が現れた。
覚醒モードの彼女はとにかく、エロい。
元々スタイルはいいし、きちっと着込まれた服が余計に男心を擽り脱がしてやりたいと思う。

…じゃなくて!
そんな露出をしないにも関わらず、醸し出されるフェロモンが堪らないのだ。


「ふぅ、お待たせご飯食べよっか」
「はい、頂きます」



***



ある程度、ゆっくりした時間を過ごしてから修行を開始させる。


「やぁ、昨日振り…」
「連続でヤマトの血を味わえるなんて…嬉しい」
「…そんなにボクの血って美味しいの?」
「美味しいに決まってる…」


一方的に問いかけるんじゃなくて、彼女の言葉にも耳を傾けつつ問いかければ良いようだ。いい感じに会話が続いている。


「ふーん…じゃあ他の男の血は?」
「知らない」
「一言で済まさないでくれよ…」
「知らないものは知らない。弱い奴のなんて興味ないもの…」
「不味いとか、なの?」
「…そうなんじゃないのぉ、あー…薄くてまずいって事にしといたら?」


だけど、やはり人の話にちゃんと耳を傾けてはいない。が、ここで引くわけにもいかないので必死に言葉を掛ける。


「分かった、弱い奴は薄くて不味いって事にしておくよ…強い子供は?」
「んー…強がろうが…子供は不味い。女も…」
「なるほどね…」
「ふふ、そうよ…その、点ヤマトのは…」
「っ…」


ある程度舐められた傷口は治る。それをわざと噛みまた血を溢れさせる彼女。

鈍い痛みはまさしくその所為。


「ねぇ…服脱いで?」
「…どうして?」


来た。

彼女は指先から離れると、身体をゆっくりと近づけてくる。


「首筋が一番飲みやすい…アンダー邪魔…」


よく言うよ、昨日お構いなしで下げて吸っていたのは誰だった?とつっこんでやりたい。

トントンと首筋を叩き、彼女は続ける。


「それに、しっかり抱き付けるし…幸せな気分になるじゃない…?」
「う…」


本当に同一人物か!
衝動を抑えられないとはいえ、これは本当に心臓に悪い。

かと言って、ボクが流されちゃいけない。
印を組み、木遁の術で痛くない程度に縛り付ける。


「っ……」
「君はこれから、力をコントロールしなきゃいけないんだ。本能のままに動いちゃダメだよ」


そうすれば、名無しさんは自分にも自信がつくし忍としてのステップも踏めるようになるんだから。


「…っ…!」
「…ぇ!?」


気を失ったのか、ガクッと身体が崩れた。いつもなら、ここで覚醒モードが切れるはず。
痛くないないように気をつけていたが、締め付けがキツかったのか。

すぐさま術を解き、彼女の身体を抱き上げる。


「残念…首筋じゃなくても、吸えるんだよ…」
「わっ…!?」   


不意をつかれ、押し倒される。
そして裾の方からアンダーシャツをめくられた。


「頂きます…」
「…んー!!」


チクッとした痛みと共にかける甘い刺激。
いつもは首筋に刺さる八重歯が、わき腹に刺さる。


やられた…
まさか、演技だったなんて!


何度か経験しているが、言葉では言い表せない刺激が全身を巡り息が上がる。
 

「ふふ、ごちそうさま…」


吸うだけじゃなく、女性特有の細い指先で身体を撫で回されていた。
厭らしく、わき腹から胸元を往復する指。

まるで、襲われているような。
いや、実際には襲われている。


「っ〜〜!」


そこからの記憶はない。
だけどもっと撫でて欲しかったと思ったのは気の所為ということにしておく。





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