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「…君にそんな過去が」

「別に最初は復讐なんてもの考えてなかった…ただ弱い自分が嫌で、あんな惨めな思いはしたくないって、それだけだった」

「…名無しさん」

「暗部に入ってからは環境に恵まれていた。…力をつけて行く度に自信もついて、里の為に貢献したいと思うようにもなった。いや、ついさっきまで思っていた…っ」



押し倒している為、表情は見えない。だけど彼女の声に覇気はなくて、どんどんとか細くなっていく。



「…なら、今は?」

「っ、分かりきった事を聞くんですね!?そんなもの消え失せた!今は憎いだけだ、あの女もオレに屈辱を虐げた父親も!!今こうやってオレを拘束しているあんたも、全てが憎い、憎い!オレは復讐する!殺すんだ!」



全身に、グっと力が入ったのが分かった。

完全に憎しみに囚われている、ドス黒いモヤが見えそうな程に。
其の気迫と豹変振りに戸惑いながらもボクは冷静を装いながら名無しさんに言葉を紡ぐ。
 


「復讐の行き着く先なんてなにも残らない、虚しいだけ。君は賢い…それくらい解っているだろう?」

「ははは!やっぱりアンタ変わったな!いい意味でも悪い意味でも!頭で解っていても、理性を抑える事なんて出来ないんだよ!!」

「そう…ボクの知っている名無しさんはもういないようだね」

「なにを言うかと思えば!ずっと偽ってきたオレのなにを知っているか聞きたいね!?」

「それでも、君は君だろう」

「…どうせ最後になる、教えてやるよ。オレはあんたの事を尊敬していた。幼き頃の人体実験、壊れてもおかしくないはずなのに、いつも前を向いていた。そんな風になりたいって…だから暗部でもやっていけた。ここまで強くなれたのは少なからず隊長のお陰だった。あんたを目標とし、いつか追いついて背中を預けてもらえるような存在になりたいって。でも…人の気持ちは脆く、変わりやすい」

「…」



その言葉を聞いて、過去の事を振り返った。

思えばいつだって彼は…彼女は、ボクの後ろを付いていた。最初は周りを見ないタイプかと思い様子を見ていたが、そうではなかった。
それは認められたい一心からで。純粋に強くなって背中を預けてもえらる存在になりたいんだと。

今更、実感する。性別関係なく、そんな真っ直ぐな君の視線が心地良かったって。



「今はあんたが心底ウザい!!オレをいかにも理解しているような言い草に、説教じみた言動!ふざけんな!」

「ねぇ、名無しさん。その頃のボクへの想いも、もうないのかい?」

「あぁ、あの女のお陰でな…奥底の閉まっていたオレの醜いモノが出てきた。今のオレを突き動かすのは憎しみ」

「そうか…なら、君をこのまま火影様の元へ連れて行く」

「………」 

「よく聞くんだ、名無しさん。君が母…一般人を襲ったという行為はまだ公になっていない。この件を知っているのは君とボクだけ。さすがに上に報告しない訳にはいかないけど、処罰もそこまで酷いものにはならないはずだ。ボクの言付けがあるなら尚更。悪いようにはしない、もちろん反省の意味をこめて数週間の拘束はすると思うけど」

「拘束…監禁…」

「監禁なんて言葉は使いたくないけど、そうなるね。……ボクの言ってる意味解る?」



頭を冷やせ、復讐に囚われて人生を棒に振ってはいけない。敢えて口にはしなかったが万が一、彼女の母がなにかを仕出かそうとしても、それは容易く処理出来る。数週間の拘束さえ我慢すれば君はまた忍として生きていける。忍として生きられなくても名無しさん≠ニして生きていける。

きっと処罰としては生温いだろう。
そもそも、その方向に持ってこうとするボク自身も過ちを犯している。いけない事だと理解している、それでもボクは名無しさんを、彼女を失いたくはないんだ。

どうか、どうか、解ってくれ。
ボクの悲痛な想いよ、伝われ。



「隊長…もうひとつ選択肢がありますよ」

「なんだい…」

「あんたを殺して、奴等もを殺す」

「…君に、ボクが殺せるとでも」

「やってみなきゃ、分からないさっ…!!」

「!」



油断したつもりはなかったが、一瞬の隙をつき拘束から逃れる彼女。そのまま流れるようにしなやかな身体から繰り出される体術がボクを襲う。まさに防戦一方、その内の攻撃の一つが顎に当たり視界が揺いでしまった。軽い脳震盪、小さな唸り声を漏らし片膝をついてしまう。
絶好のチャンスを逃すはずのない名無しさんはクナイで急所であるボクの心臓を狙った。



「貰った…!!」

「っ……甘い、そうはいかないよ!!」



嗚呼、想いは伝わらなかった。

言葉に言い表せないなにかの感情が全身を駆け巡る、それでも此処で簡単に殺られるつもりはない。
暗部を抜けたからといって日々の鍛錬は欠かした事もないし、実力が落ちた訳でもない。
心臓にクナイを突きつけようとした瞬間、颯爽と現れた木分身のボクが後ろから彼女を羽交い絞めにした。



「…!?くっ、いつの間に…!!」

「何事も先を見据えてさ…念の為にもう一体作っておいて正解だったよ」



ゆっくりと近づき、殺意と憎しみが篭ったクナイを取り上げる。



「さて、これでボクを殺せなくなった。今度こそ、火影様の元へ君を連行する」

「捕まるくらいなら、死を選ぶ!」

「そんな事、言うものじゃない…」

「そんな事?オレの気持ちは変わらない!!どんなに時が経っても、いずれ奴等を殺す。殺した衝動に駆られるんだ!復讐の機会が失われるなら…潔く死を選んでやるさ!」

「…まさか!」

「ふ…サヨナラだ」



名無しさんは声さえ荒げてはいたが、表情はいつになく落ち着いて…何処か美しかった。

ほんの少し見惚れてしまったが、ハッとなりを彼女が仕出かすだろう行動を阻止する為に身体を動かす。身動きが取れない状態で死を選ぶとなると、それはたった一つ。

舌を噛み切る一択。

そんな事をさせるわけにはいかない。

小さな唇が大きく開き舌を噛み切る寸前に、彼女の口内に自分の指を無理やり入れて邪魔をする。ガリッとした鈍い音、指が思いきり噛まれた。赤い液体が名無しさんの口元を伝う。容赦無く噛み切ろうとした為、痛みがないといえば嘘になるが、この際そんな事は言ってられない。
木分身の彼に目配せをし羽交い絞めを解かせて、そのまま空いた片手で後頭部を掴んで、指を抜いたと同時に己の唇で名無しさんの唇を塞いだ。



「!!」



躊躇なく最初から奥まで舌先を捻じ込み口腔を犯す。唐突の思い掛けない出来事に逃げ惑う彼女の舌を追いかけ、絡ませ、舐め上げ、吸い上げる。

名無しさんとの初めてのキスは鉄の味。

甘いキスなんて物は其処に存在しない、ただ衝動を抑えるだけの行為に等しい。それでも敏感に反応しているのか生理的な涙で瞳が潤み、時折甘い吐息が漏れる。



「…死なせないよ」

「っ…ぁ…ふ…」



舌を噛み切るという破壊衝動。
雰囲気から其れが消えた事を察知すると一旦唇を離した。互いの口元についた赤い液体は何処か妖艶で、こんな状況にも関わらずゾクリとなり酷く欲情した。ペロリと生温い舌で一度舐め上げて息を整えては再度唇を重ねる。何度も何度も角度を変えて、深い濃厚なキスを送る。
硬直していた身体はいつしか力が抜けてボクに身体を預けるような形になっていた。



「ゃ、めて…」

「はっ…女性らしい声になってきたね…?」

「っ!この…!」



その一言にかっとなって全身に力が戻り、拳を放つ名無しさん。感情的になった時の行動ほど無様で分かりやすいものはない。軽く避けて、腕を掴み力を込めると苦痛で綺麗な顔が歪む。
その隙に壁際まで追い詰め、自身の膝を割りいれて股下を刺激しつつ今までにないくらい体を密着させる。
 


「っ…ぁ…」



腕を掴んだ際の痛みか、壁際への衝撃か、それとも股下の刺激が恥ずかしいのか…小さく声をあげる名無しさん。
少しばかり此の状況に興奮しつつある自分がいるが、悟られないように言葉を掛ける。



「もう一度言う、復讐なんて止めるんだ。まだ間に合う」

「…っ、でも…憎しみしかない!もう、オレにはそれしかないんだ!!」

「憎しみ…」

「…もちろん最初は愛情だったさ!!会えなくても血の繋がった母親だ。求めるに決まっている…でも、あいつはオレを捨てた!あの時はただ悲しいだけだったし訳が分からなかった…でも、こうやって再会してはっきりと分かった。全て、憎しみに変わってしまったんだって」

「それを愛情に戻す事は出来ないのかい…?」

「出来るわけがない!そもそも、オレの一方的な想いだったんだ!…愛情なんて、あいつには、あいつらにはなかった!…だったら…」

「…名無しさん」



至近距離で彼女を見つめる。
身体はガタガタと震え、今にも泣き出して崩れそうな勢いだった。まるで小さな子供。大人びていたが中身は幼いのかも知れない、ボクの前にいる君はただ愛を求めた少女。
何時しか、そんな名無しさんを強く抱きしめていた。



「愛を知らずに育ってきたなら…」

「はな、せ…」

「だったら、ボクが君に愛情を注いであげる」

「なに言って…!」



彼女の瞳を見つめ、頬を優しく撫でる。



「ボクに抱かれるんだ」



───さぁ、混沌ノ中デ掴ンダ行ク末ハ?

GOOD END?
BAD END?





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