×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
 
 
GOOD END?


「は、なせ…っ!」

「離すもんか」



名無しさんを力強く己の胸の中に閉じ込める。
此処で再度実感する、なんて華奢な身体なんだろうと。この小さな身体で、たった独り…どれくらいの重荷を背負って生きてきたのだろうか。

どうして気づいてやれなかった、ボクは名無しさんの何を見ていたんだ?

自身の未熟さに腹が立つ。



「大丈夫だから、名無しさん」

「意味が、っ…分からない!」

「分からなくてもいい…今は分からなくてもいいから」



これは、同情。
今のボクの行動はそんな感情で動いている、そう彼…彼女は思っているだろう。
側から見た自分はきっと哀れで滑稽、情けを掛けられている、と。

そりゃそうだ、過去の話を聞いただけで全てを理解なんて出来るはずもない、それが普通の反応。

それでもボクは理解をしたい、君の苦しみを少しでも背負いたいんだ。



「なんだよ…っ、それ!」

「名無しさん」

「っ、ン!?」



彼女の言葉を遮るように唇を奪う。

優しくも、激しい口付け。
唐突に重なり合う感覚に驚き口が開いた隙を狙って舌を滑り込ます。柔らかい彼女の舌に自身の舌を絡め、口腔内を愛撫。

感じているのか、はたまた恐怖か…
名無しさんは震えていた。

それに気づいたボクは唇は離す事なく、大きな手で背中を撫でる。一定のリズムで上から下へ。
それはまるで赤子をあやすかのように…愛情を込めながら。



「名無しさん、聞いて…ボクは嬉しかったんだよ?君がボクを憧れの対象として見ていてくれた事、ボクの過去を全て知った上で言ってくれた」



初代火影の遺伝子、木遁の血継限界。

唯一無二の力、だけどそれは多大なる犠牲の結果。疎ましく思われたり、妬まれたりした事だってあった。其れこそ命を奪われたりするような事も。
手に入れたモノは誇るべき力だと、最初は受け入れられなかった。もしかしたら、未だに心の奥底で恐れている自分がいるかも知れない。

そんな弱い自分を、君は憧れの存在として敬意さえ抱いてくれた。あぁ、ボクは此処にいて良いんだと、強く実感したんだ。



「っ…たい、ちょう…泣いて…る?」



指摘され、気づく。
頬に伝うモノに。

自分が泣いている事に、そこで初めて気づいた。

涙を流すこと自体無いに等しいのに人前で泣くだなんて。忍たるもの、とか色々頭の中を巡るけど、一番は女性の前で泣き顔を見られるのは恥ずかしい。羞恥心というヤツか、必死で止めようとするが…止まるはずもなく。



「……すまない…いきな、り…名無しさん…?」



涙が伝う頬に、何か温かいものを感じた。
それは、彼女の手。
先程まで震えていた名無しさんが、真っ直ぐにボクの瞳を見つめ優しく頬を手で包んでくれていたのだ。

ボクはバカだった。
抱きしめる事で君に愛情を伝え、注ぐつもりでいたのに…今の君にそんなモノは必要なかったんだ。



「涙って…冷たく、ないんですね…」

「…あぁっ、そうだよ…!」



人の気持ちは変わりやすい。
愛情が憎しみに変わるなんてザラじゃない、それは彼女が嫌というほどに実感している事。

でも、キッカケがあれば…
世界に光が差す事だってあるんだ。
奇跡なんて言葉を信じるわけじゃないけれど…

すっ…と、名無しさんの蟠りが消えた気がした。



「隊長、私…貴方を知りたい。隊長が、私を理解したいように…もっと知りたい……」



憎しみに囚われ、暗闇の中にいた彼女が…一歩前に踏み出した瞬間だ。

ボクと君は似ているんだ。

昔、カカシ先輩や三代目がボクを理解し受け入れてくれていなければ…ボクだって道を踏み外し、この力を悪用していたかも知れない。
あの時、仲間や理解者という一筋の光がボクを導いてくれたからこそ、今のボクがいる。

ボクを憧れの存在として見てくれた君、闇の中で一人蹲り迷う君、一人孤独でいる君。
そんな君を、今度はボクが一筋の光となって君を導きたい。

涙は何時しか止まり、落ち着きを取り戻したボクは彼女を抱き締め名前を囁く。



「…名無しさん」

「………」

「全てを忘れ、許せとは言わない…。だけど、それを憎しみという感情にしないで欲しいんだ」

「………」

「ごめん、強要してるみたいだ。でも、約束してほしいんだ。憎しみに囚われないで…だからね、指切りしよ?」

「…ゆ、指切り?」



戸惑う名無しさんの手を取り小指を絡ませ、お世辞にも上手くないリズムで【嘘ついたら針千本飲ます】と、お決まりの言葉を交わした。

絡んだ指は離れる事はなく、そのまま手を繋ぎ体温を確かめ合う。



「名無しさん、この手を掴んでいて?ずっと、ボクが君を…導いてあげるから」



君の心の闇を包んであげるから。

迷い、苦しみ、泣きたい時はボクを呼んで、この手を掴んで、強く、強く。


君の一筋の光となれ、ボクという光を。



【混沌ノ中デ掴ンダ行ク末ハ-GOOD END?-】


fin
20200515





[back]
[top]