帰宅ラッシュ3
▼帰宅ラッシュおまけのおまけ
スーツ姿の男の子と二人で居酒屋。
いつもは電車の中だから少しそわそわして、悪いことをしてる訳でもないのに何だかやたら人の目が気になってしまう。
店員さんには僕らはどう見えてるだろう。
僕も白いワイシャツだから、きっと会社の上司と部下に見えてるだろうなぁ。
男の子は健太くんというらしい。
可愛い名前だね、と言ったら俯かれてしまった。
「あっ男の子に可愛いはないよね。ごめんね、健太くん格好いいからちょっとギャップで…」
「かっ…こういいですか…っ?」
「えっうん」
かぁーっと顔を赤くして再び俯く健太くんに、何だか僕まで気恥ずかしくなって赤くなって俯いて、紛らわすためにお酒を飲んだそのタイミングが健太くんと一緒で何だか少し嬉しい。
「あっあの、昨日はすみませんでしたっ!」
急に頭を下げる健太くん。
なにがだい?
「あの、急に抱きついたりして、あのっ」
「あっいやっ別に…っ」
しどろもどろの健太くん。
僕は昨日の事を思い出して、密着した時の健太くんの匂いを思い出して
「けっ健太くんのさ、香水いい匂いだよね。爽やかで、でもすごいあの、どきどきして、えっと、何ていう香水なの?」
赤くなってるであろう顔を誤魔化すために言った言葉はたぶん、どう聞いても気持ち悪かった。
だって健太くんがすごく、怪訝な顔をしてる。
赤くなった顔がさーっと引いた。
こんなおじさんが香水でどきどきって。
気分悪いに決まってる。
違うんだよ、別にそういうんじゃなくて、ただ間が持たなくて言っちゃっただけなんだ。
そんな弁解が喉元まで出たとき、健太くんがぽつりとこぼした。
「オレ、香水なんて付けてないですけど」
「えっ」
ちょっとの間頭に入ってこなかったその言葉を理解するにつれ、だんだんと赤くなる僕と健太くん。
「えっ、…えっ?」
それはつまり、僕は健太くんの体臭にどきどきしてたって事で
「いっいっ今の忘れてっ忘れてっ」
「わっわっ忘れられません…っ」
僕らは真っ赤になって俯いて、ああもうおじさん駄目だ。
君の顔を見られません。
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