マジックアワー2


▼マジックアワー2



魔法が使えない?大丈夫、ちょっと失敗しちゃっただけだよ。ほらこうやって…あっ…もっもう一回、ねっ!最初はみんな出来ないんだから!ほらこうやって…

…………ゆ、ゆうくん…、大丈夫!魔法なんて使わなくても、魔法なんかよりもっとすごい事出来るんだよ!えっと、えぇっとー、ほら!こんな風にハンドパワーでミカンを浮かせたりー、あっ裏から見ちゃだめっ!えへへ、凄いでしょ?こういうのをね、手品って言うんだよ。

ゆうくん、どうしたの?魔法?魔法成功したの?うわぁ!凄いよお水が出たよ!ええっ?パパにも出来ないよ?!ええっ?ゆうくん、ええっ?!凄いよゆうくん!

ゆうくん凄い成績だね!パパこんなの見たことないよ。でもコメント欄にちゃんと課題に取り組みましょうって…、え?試験で遊んでるの?ゆうくん…ダメでしょう先生方を困らせちゃ。へへ、でもゆうくんみたいな息子がいたらパパの老後も安泰だなぁー。

ゆうくん、前はあんな事言ったけどね?パパの事は気にしなくていいんだよ。なんならゆうくん一人くらいずっと養って行けるんだから。そりゃ貧乏にはなるけど、ねぇゆうくん、辛いなら辞めても

ガタンと椅子の動く音がして、生徒は自分の立てたその音で目を覚ました。

教卓から睨んでくる教授にペコリと詫びて居住まいを正すと、隣の首席が小さく話しかけてくる。

「来週の試験の内容、聞いてた?」
「聞いてたと思うか?」

生徒が返すと、首席はメモを滑らせた。

「…またねずみか」

茶色いねずみを白くする。と書かれたメモを見て生徒は眉間に拳をあてた。

ねずみは父親が苦手であいにく飼っていない。だが白い猫なら飼っている。
白くした上に全く別の大きな生き物に変えるんだ。教授はなんとでも言いくるめられるだろう。
なんならねずみは猫に食われたとでも言えばいい。
ブラックすぎる?知るか。

「今回は普通に出来そう?」
「いや、ねずみは無理だ。ねずみアレルギーだからな」

しれっと返せば「そうだったね」とクスクス笑う首席。

「いいのかよそれで。明らかにイケナイ事してるんだぞオレは」

生徒にとって、首席が不正を告発しなかったのは意外だった。
しかしそこを尋ねると、いつも決まってこう返ってくる。

「だって君のは試験じゃなくてショーなんだろう?」
「そうだけど、そうじゃなくて。オレはそもそも魔法が」

生徒の言葉を遮って、首席は生徒の手を椅子の上でギュッと握った。

「魔法なんて使わなくても、君は十分素敵だよ」
「…お前はなんでそういう事を」

サラッと言うんだ、という生徒の言葉を今度はチャイムが遮った。

「じゃあまた明日な」
「うん…」

名残惜しそうに生徒の手を離す首席。
こいつは本当にオレの事が好きなのかもしれない、と生徒は思う。
だから不正も見逃してくれているのだろうか。
だとしたら、申し訳ないけれどもその好意に甘えてしまおう。
この茶番劇を続けるために。


辛いなら辞めてもいいと言ったあの人は、きっとオレが魔法を使えない事に気付いている。

でもそれを真実にしてはいけない。
血が繋がっていないと知られてはいけない。
あの人を絶望させてはいけない。

だからこの茶番劇の幕引きは、出来るならあの人が死んだ時に。


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