マジックアワー


▼マジックアワー



魔法ものです。



「えー、では参ります」

黒板を背に、三人の教授が机に肘を突いて見守る中、その生徒はパンッと手を叩いてもったいぶるように教卓に置かれたねずみの置物に手をかざした。
しかし何の変化もない。

「おっと、強情な置物だ」

一度手を引き、気合いを入れる素振りをしてからまたかざして、ねずみの置物を包み込んだかと思うとその手の中からバサバサと手乗り梟がはためいた。

おぉ、と声が上がり生徒が仰々しくお辞儀をするも、真ん中に鎮座した初老の教授がすかさず指摘する。

「君、この試験は置物を本物のねずみに変えるはずではなかったかね?」
「あぁ、知りませんでしたか?私はねずみアレルギーなんですよ。同じ生き物なんだしいいでしょう?」

渋る教授に生徒は肩を竦めて、パンッと手を叩くと梟はどこかに消えていた。

「たかがねずみと梟の違いでしょう。あぁ、お茶が無くなっていますね。さぁこれでも飲んで落ち着いてください」

生徒が教授に近づいて空のカップを手に取り、一撫でして戻すとそこには紅茶が注がれていた。
左右にいた教授は眼鏡を押し上げ覗き込む。

「ずいぶんと冷めているようだが」
「あまり熱いと火傷をしてしまうでしょう?あぁ、なんなら火を出しましょうか?お好みの熱さにして差し上げますよ」

生徒は教授たちから少し離れ、ボッと手のひらに火を出した。
またおぉ、と湧き上がる歓声。

「いい、いい、そんな危ない物は仕舞いなさい。今回はSをやるが、次はきちんと課題通りにするように」
「もちろんです教授」

火が小さくなって消えると、生徒はまた仰々しくお辞儀をして教授たちの後ろの、自分の席へと戻っていった。

「そう言って課題通りやった事ないよね」

席へ戻ると隣の生徒がコソッと話しかける。

「まぁその方が楽しくていいんだけど」
「だろう?オレのは課題じゃなくてショーだからな」

教卓では課題通りのつまらない魔法試験が続いている。

「でも置物と関係ない梟を出したりなんも無いところに火だしたり、本当に凄いよ。教授でもそうは居ないんじゃないかな」
「お前に言われたくないよ。嫌みか」

隣の生徒は家柄も顔も魔力も一級で性格もよくて首席というまさに優等生。
話しかけてくれるから応えるけれど、あまりにタイプが違いすぎて生徒は少し苦手だった。
しかも時折隣から思い詰めるような視線を感じる。
実は煙たがられてたりライバル視されてるとしたら面倒だな。
それとも、と、そんな風に思いながらぼんやり試験を眺めた。

そしてそのそれとも、が正解だと言うことが、その日の放課後明らかになる。





「やっぱり、そうだったんだね」

放課後、誰もいない教室で生徒が教卓の下から木箱を取り出しているといきなり首席が話しかけた。

「なにが?」
「手品だよ」

首席の言葉に、生徒はあーと他人ごとのように声を上げた。

「そっちだったか」
「そっち?」

ライバル視されてるかバレてるか、どっちだろうなと考えていた。
手品に使った小道具が入った木箱を手にしていては何の申し開きも出来ない。

「言う?」
「…それは、理由を聞いてからかな」
「お前いいやつだな」

どんな理由であれ不正はだめだろ、とあっけらかんと言う生徒。

「でも教授も気付かなかったのに、なんで分かった?」
「魔法を使ってるのに魔力を感じなかったから」
「そんなん分かるのか?やっぱ優秀なんだな」
「茶化さないでよ」

ムッとした首席に、生徒は肩を竦めてみせた。

「オレ魔法使えないんだ」
「そんなの補修でも何でも受ければいいじゃないか。なんならオレも付き合うし」
「そういう問題じゃない。欠片も使えないんだ。人間なんだよオレ」
「…馬鹿な」
「な。オレもそう思う。多分だけど、母さん人間と浮気したんじゃねぇかな」

ポンっと手から花を出して遊ぶ生徒。

「でもほら、人間ってバレるとさ、色々面倒くさいだろ?就職に響くし。初任給半分以下じゃん。魔法使わない仕事でもさ」
「だから…」
「オレ一人息子だしなぁー」

頬杖をついて花をいじりながらぼーっと外を見る生徒。

「なら」

その花を持つ手を握りしめる首席。

「なら金を稼げる男に嫁げばいい!」
「はい?」

それが首席の決死の告白だと、その時の生徒は露ほども気付かなかった。


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