家族なんていらない2
▼家族なんていらない2
キッチンで朝ごはんの準備をしながら親父を後ろから抱き込んで真っ赤にさせるという器用な事をしている清二さんをあまり見ないようにしながら、オレは軽くため息をついた。
父親がゲイになっても割りとグレずに育ってきたオレだが、こう毎日ゲイカップルの甘い空気を見せられると今更ながら道を逸れてしまいそうになる。勘弁してくれ。
「朝っぱらからお熱いねぇー」
オレの隣に腰掛けたこいつは、清二さんとこの晃さん。
オレより一つ歳上だけど、こいつは四月生まれ、オレは三月生まれで学年は同じだそうだ。
「オレらも朝から盛っとく?」
そう言って肩を抱き寄せる晃さん。
この人はオレとは違って、ゲイの父親を持った事で道を逸れてしまったらしい。しかもゲイの方面に。
晃さんなりの冗談かもしれないけど、親が親だけにシャレにならない。
「そういうの止めてくださいって言ってるでしょ晃さん」
「その他人行儀なしゃべり方止めろっつってんでしょ智基くん。ほら言ってみ『おにーちゃん』」
「…遠慮しときます」
オレはあんた達と家族になった覚えはない。
「あは、すっげー嫌そうな顔!そんな顔してるとほんと襲うよ?」
「意味わかんないです」
「えーじゃあ教えてあげよっかなぁー」
グイグイとのし掛かってくるゲイ(仮)とそれをギリギリ押し返すオレ。
「なにやってんの兄貴」
その不毛な戦いを止めたのは清二さんのもう一人の息子、和也だった。
幾分冷めた目でこっちを見る和也に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
ほんと朝っぱらからなにやってんだろうな。
「はん、ムッツリは黙ってろよ」
にんまりと笑う晃さんに無言で蹴りをかます和也。
いいぞもっとやれ。
いややるな蹴られた晃さんがオレにどんどんのし掛かってきてるぞケツを撫でるなこの野郎。
「何だかもうすっかり仲良しだねぇ」
間延びした声に目を向ければ、親父が俺たちを見てニコニコと笑っていた。
ここで無駄にはだけたシャツとか首筋についた赤い印を気にしたらきっと負けだ。
だから気にはしないけど家出はしたい。
「お前ら戯れてないでさっさと飯食えよ」
清二さんは既に席についてご飯を食べていた。自分こそさっきまで戯れてただろうが。
「オレたちのは戯れじゃなくて本気だからいいんだよ」
オレの思考を読んだかのようにニヤリと笑う清二さん。
そっちのがタチ悪いじゃねぇか顔赤くしてんなよクソ親父ちくしょう家出したい。
しかし今は金がない。
時間も押していたので手早く朝食を食べる。
悔しいけど清二さんの作る飯は美味い。
色気があって仕事が出来て料理も出来るとか、そんな物件がなぜオレの親父に転んだのか。
同居を初めて早一週間、その辺は未だに謎のままだ。
「智基、晃くん、和也くん、ちゃんとお弁当持った?」
焦って靴を履きながら問う親父に、晃さんが良い子のお返事をする。
じゃあ行ってくるね、と一足先に出ていった親父はニコニコと笑顔を浮かべていた。
出ていく時に清二さんにキスをされたからだろうか。視覚的にキツいから止めて頂きたい。
それに続いて晃さんと和也も出ていった。
あの二人はオレと違う学校に通っている。
「じゃあオレも行ってきます」
「おぉ、まぁ頑張れや」
スーツに身を包んで一層色気を増した清二さんに挨拶をする。
そのついでに、少し、今更な事を言ってみた。
「清二さん、親父の事、よろしくお願いします」
この同居生活で唯一よかったと思えるのは、親父が昔みたいに笑うようになった事だ。
オレと二人の時の、沈んだ顔でごめんと繰り返していた時よりもずっと幸せそうでいい。
その幸せの理由がこの男と言うのは如何せん気に食わないが、まぁそこは良しとしよう。
所詮オレは親父の事が好きなのだ。
清二さんはオレの言葉に一瞬動きを止めていたが、やがてニヤリと不敵に笑った。
「当たり前だろ」
その自信満々な感じがなんかちょっとイラッときた。
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