隣人3


▼隣人03



大学の講義が終わった帰り、家の近くのコンビニに立ち寄ったらエプロンをつけた奴がいた。

あいつ、あのー、あぁまた名前忘れた。
あいつが引越して来てからもう何日か経つのにな。
まぁいいか。

「田中くんじゃん!なになにオレに会いに来てくれたのー?」

嬉々としてレジ向こうから身を乗り出してくるそいつ。
を見て再び自動ドアを潜って外に出ていくオレ。

あーっちょっとぉ!とガラスを隔てて奴の声がする。
止めなさいはしたないお客さんが驚いてこっち見てるでしょオレを巻き込むなこの野郎!

オレは他人のフリをして無心で歩いた。
風を切って歩いた。
若干競歩になっていた。

しかしまさか奴があそこで働いているとは。
なんかちょっと行きづらくなったじゃねぇかちくしょう。
ってか奴はあれか、いわゆるフリーターだったのか。
なぜによりによってあのコンビニなのか。



「さっきコンビニ行ったら山下くんに会ったよー」

夕飯の買い出しに行こうと部屋を出たところで仕事帰りの宇田川さんとバッタリ遭遇し、思いもかけず奴の名前が出た。
あぁそうだ山下とかいう名前だった。

しかし宇田川さんの八の字笑顔は癒し効果抜群である。
奴のせいで荒んだオレの心がスーっと凪いでいくのを感じた。
例えその口から奴の名前が出ようとも変わらないその癒し効果。
素晴らしいマイナスイオンですね宇田川さん。

「…コンビニって、まさかまた夕飯…」

そんな内面をおくびにも出さず探るようにそう聞けば、宇田川さんは慌てたようにコンビニの袋を背に隠した。

「ちが、いや違うよっ?ただデザートをねっ?買っただけで、あの」

あげた素麺を「完食したよ」と報告してくれた時、少しは自炊して体大事にしなきゃ駄目ですよ、ってオレが心配したのを気にしているのか、別にいいのにしどろもどろになる宇田川さん。
どうしよう可愛い。
こんな30代許されるんだろうか。
どうしよう可愛い。

「あっ、そうだ!あの時の素麺のお礼にね、みんなの分もシュークリーム買ってきたんだ」

みんな、という事は奴も入っているのか。
なんて優しいんだ宇田川さん。
っていうかがさごそと漁ってるコンビニの袋からおにぎりが見えてますよ宇田川さん。
一応隠そうとして口の部分を最小限に開いてるみたいですけど袋が薄いから透けて見えてますよ宇田川さん。
だめだ本当可愛い。
このままだとオレは変な方向に走ってしまいそうだどうしよう可愛い。

「はいこれ、ただのコンビニスイーツで申し訳ないんだけど、素麺ありがとうね」

オレの手にシュークリームを乗せて八の字笑顔を見せる宇田川さん。
オレはその癒し効果に、今日は肉じゃが作ってお裾分けしに行こうと心に決めた。


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