隣人1


▼隣人01



「はじめましてぇ、えーっと、田中さん?隣に越してきた山下でぇすよろしくー」
「あ、はぁ、よろしく…」

赤のパーカーに茶髪猫っ毛の彼は持っていた箱をお近づきの印にーと押し付けてきた。
軽い感じのノリだけど、ちゃんとご近所に挨拶するなんて偉いなー。オレ来たとき何もしなかった。反省。

「田中くんは学生さん?」
「あ、です」
「へぇーどこ?」

踏み込んでくんなぁ。まぁただ何となく聞いてるだけで特に興味もないだろうからいいけど。

「そこの大学です」
「あぁ、大学生なんだ。へぇー一人暮らし大変じゃない?」
「いやもう、結構慣れてきたんで」
「ほんと?料理とか掃除とか出来んの?すげー」
「いやまぁ、人並みには」
「マジでー今度ご馳走してよーオレ生活能力ないからさぁー」

そう言ってカラカラ笑う…誰だっけ。まぁいいや興味ないし。
てか初めて会った人間にそのセリフは社交辞令の域を越えてるだろ。そもそもその口調はないだろ。お前はなんだオレの友達か。

「いやぁー人に食べさせる程のものは作れないんで」

とか思ってても無難に返すオレ。偉くね?ない?そうよね普通よねうん分かってる。

「それは田中くんが決める事じゃないでしょー食べる側が決める事でしょー。オレがどんなもんかちゃんと見てあげるからさー」

そもそもお前に食べさせる予定がねぇよ、と言う前に、じゃあまた後でねぇーと手をヒラヒラ振って嵐は勝手に去っていった。
後があってたまるかコノヤロー馴れ馴れしすぎて逆に付き合いづらいわ。
まぁ擦れ違ったら会釈くらいするけどな。オレってば当たり障りのない人間だから。

とか思ってたら夕食の支度を終えた頃にそいつはまた現れた。
なんの用ですかと尋ねたらご飯食べに来ただそうだ。馬鹿か。
そして勝手に上がり込んで机の上の質素なネコマンマを見て勝手にしょんもりした。だから他人に食わせるようなモンじゃねぇっつったろうが。
しかもあろうことか奴はそのネコマンマを一口食ってさらにしょんもりした。死ね。
その上オレに向かって相変わらずのしょんもり顔で食べる?とか聞いてきた。
その上目使い1ミクロンも可愛くねぇよ死ね。てめぇの食いかけなんざ要らねぇよ死ね。責任持って食え。いや食わなくていいからさっさと出ていけこの不法侵入者め。
結局奴はしょんもりしたままイソイソと帰っていき、去り際にしょんもり顔で明日はもっと美味しいの作ってねと抜かしやがった。殴りたい衝動を必死で抑えた。
その時オレは確実に仏への階段を一歩登ったに違いない。
その後仕方なしに奴の食いかけのネコマンマを胃に入れた。
あんなにしょんもりする程不味いか?まぁ豪華なお食事ではないけれど、自分で食う分にはまるで問題ない。
ただ奴のあのガッカリ感と野郎の食いかけという事実のせいで何かもうやるせない気持ちになった。くそぉ何だこの仕打ち。

翌日、ドアを開けたらバッタリ、なんて事を危惧したがそんな事はなく、オレはアパートを出て大学へ向かう。
と、後ろから田中くぅーんと叫び声。
思わず振り向くと、アパートの二階、手摺から身を乗り出してオレの朝ごはんはー?!とのたまう奴がいた。
奴とは逆の隣人さんが丁度部屋から出てきて驚いて奴とオレを見比べている。
あぁ、何かもう

「死ねばいいのに」


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