居酒屋せんべろ2


「お客様、当店に何か不手際でも…?」

その店に入って案内についた店員に、開口一番そう問われた。
オレはフルフルと首を振って俯く。

俯いても目に入る店員の顔は、何というかキラキラとしていた。まるで童話の王子様。
そのキラキラ店員はキラキラしたまま、困ったようにこちらを伺っている。
オレはもう一度フルフルと首を振った。

キラキラ店員は困った顔の営業スマイル。
でもそんな顔でも王子様だ。顔がいいって、ずるい。

「…ではお席にご案内します。こちらへどうぞ」

今度は首を縦に振って、キラキラ店員について行く。
オレ1人なのにカウンターでなく個室に案内してくれるらしい。
もしかしたら、店先で問題起こされると困ると、思われたのかもしれない。

オレは結構タッパがある。キラキラ店員もそこそこあるけど、それでもオレのが5センチは高い。そして三白眼で常に眉が寄っているという目つきの悪さ。
加えて饒舌でもないと来ると、基本的にケンカ売ってるか機嫌悪いか文句あるかに見えるのだ。
と思う。面と向かって言われたことは、ないけれど。


「メニューはお決まりですか?」

綺麗な所作で個室の引き戸を閉めて、キラキラ店員が問う。
決まってはいる。決まってはいるのだけど、やはりいざとなるととても恥ずかしい。

壁に貼り付けてある多くのメニュー。
生中やマグロ丼や串盛り合わせエトセトラエトセトラ。

オレは正座して、ズボンをギュッと握って、握った手をキッと睨んで、…まぁ言ってしまえば俯いたまま、メニューの1つを指差した。

「えっ」

キラキラ店員が驚いたように小さく声を上げるから、ギッと睨んだ。

「あ、申し訳ございません。こちらで、よろしいのですか?」
「………」

やはりとても恥ずかしい。再びギュッと握る手に視線を落として、なんだか熱くなった気がする顔をキラキラ店員から背ける。
髪が短くて、とても隠せやしないけど。

「……キスざんまいで、お願いします」
「…………畏まりました、お客様」

何とか絞り出した声は、とても低くて、どこか不満げ。だって地声がこれだから仕方ない。
仕方ないから、あまり喋らないようにしている。ビビる相手は見たくない。

「ン…」

俯いたオレの顔を綺麗な指がすくい上げて、ちゅ、ちゅ、ひんやりした唇が触れる。
なんだか熱い顔にはひんやりしたそれはとても気持ちがいい。
薄く目を開けると、面前に広がるキラキラ店員。
睫毛がすごく長い。色素が薄い。外国の血が入っているのかな。とても綺麗だ。やっぱり童話の王子様のよう。

不意に、唇を合わせた王子様が目を開いた。
睫毛と同じ、色素の薄い目はなんだか吸い込まれるようで、持って行かれないようにギュゥッと目を閉じた。
すると王子様は、正座してズボンを握り締めるオレの手にそのひんやりした手を重ねて。
そして後頭部にも手を回して。
ちゅ、という可愛らしいキスがムチュ、という押し付けるキスになって。
角度を変えて唇をはまれて。

「ン、ふぅ…」

鼻から抜けるような変な声を出してしまうと、王子様がオレにのしかかって来て。
オレの正座は呆気なく崩れて。

「ハァ…お客様…」
「ンン…っ」

倒れたオレは両手を恋人繋ぎで押さえつけられて。
王子様は貪るようにオレの唇を吸って舐めて舌を入れて。
王子様の唇も手も、今はもうオレと同じ温度で。
舌はオレよりもっと熱くて。
口内をグチュグチュされるとオレは意識朦朧で。
キスざんまい…すげぇな。
あとキラキラ店員は王子様ではないな。
こんな激しいキスざんまいの王子様イヤだし。

「お客様、…お客様?大丈夫ですか?」
「っぁ、ハイ…じょぶです」

朦朧としたオレを気遣うキラキラ店員。
押し倒してたオレからのいて、うやうやしく手を取り抱き起こす。

「やっぱり王子様っぽい」
「はい?」

しまった声に出してしまった。
少しキョトンとしたキラキラ店員は、でも直ぐに口に手を当ててクスクス笑い出した。
この人動作1つ1つが綺麗なんだ。やっぱり王子様みたい。

「ではお客様が私のお姫様になって下さいますか?」
「………………」
「そんなに引かなくても」

またクスクス笑うキラキラ店員。
釣られてオレもふは、と笑った。

「それでお姫様、次のご注文はいかがしますか?」
「え」
「え」

お姫様にはツッコまないぞ。それより次のご注文と言われても。

「オレは…あの、キスざんまいだけで…」
「え」
「え」

別にヌく気も掘る気も、まして掘られる気も毛頭なく、ただキスざんまいというメニューを知って、何というか…人肌恋しさに来てしまったんだけど、ダメなんだろうか。

「やべーオレもつかな…」
「え」
「いえ、何でもございません。では続きを致しましょう?」
「ン…っ」

そうしてまた押し倒された。
明日くちびる腫れそうだな、と思ったんだけど、キラキラ店員は唇ではなく首筋にキスを落としてきた。

「わっ、はっ?!」

ちゅっちゅっ

「キスざんまいですから、ちゅっ、何も口だけとは、んちゅ、限りませんよお姫様」

キラキラ店員は首筋を辿って、シャツをはだけて、鎖骨を通って、上目にこちらを見ながら、器用に胸元にまでキスを落としていく。
あの吸い込まれそうな目が、オレの身体にキスしながらこっち見てる。
そんなの耐えられる訳がなくて、オレはまたギュゥッと目を瞑った。

「ダメですよお姫様」
「ヒッ」

そしたらたしなめる様に乳首を吸われた。
ゾワゾワした。ゾワゾワ。

「やッ、めて下さいもういいですから!」

あまりの事にキラキラ店員を振り払って襟掻き抱いて壁際まで逃亡。
キョトンとしてこちらを見るキラキラ店員。

「もう、よろしいのですかお姫様」
「お、姫様じゃねーし…別にそんな、こんな事までされるとか思ってなくて、もう、もういいですから、ありがとうございました」

恐らく真っ赤であろう顔を見られたくなくて、ペコリとお辞儀。
すると、キラキラ店員がさっきと同じようにオレの顔をすくい上げて、ちゅ、可愛らしいキスを1つ。

「さすがお姫様。うぶなんですね」
「う、ぶ、って、違」

クスクス笑うキラキラ店員に反論しようと口を開くと、人差し指で唇を押さえられて何でか言葉が出なくなる。

「大丈夫ですよ。お姫様は王子様のキスで目覚めるでしょう?」
「………?」
「私のキスで目覚めて下さい。ね、お姫様?」

ダメだこいつ王子様の皮を被った変態だ。




ヂュッ、ぶちゅっむちゅっヂュッ

「ひっ、ふーッふーッはぅっアァ…ッ!」

壁に背を付けて逃げ場のないオレに覆い被さって至る所にキスざんまいするキラキラ店員。
しかも何だか、痕を付けられている。痛い。でもゾワゾワする。
鎖骨にも肩にも二の腕にも胸にも腹にも、見えないけどきっと首筋にも。
タッパはオレのがあるはずなのに、中途半端に腕に絡まるシャツが上手く抵抗させてくれない。なんて、言い訳だけれども。

だってすごく、ゾワゾワする。

「お姫様…ダメですよ、目を瞑っては」

ちゅ、と目蓋に1つ。

「ちゃんと、私の目を見て」

薄く目を開けると、0距離で目が合って、キスされて、吸い込まれる。
ゾワゾワする。

「ゾワゾワする…」
「………お姫様…」
「ン…っふぅっ、ふぅぅっ」

やっぱり明日くちびる腫れそう。


散々オレの口内を荒らしたキラキラ店員の唇は、またも下に下がって行く。
でも目はずっと、オレを見たまま。

「あ、止め…ふぅぅっあふ、あふ」
「ちゅっ、私のお姫様は、ン…っ、キスであられもなく感じてしまうんですね」

ちゅっ、ちゅ、どこにキスをされてもゾワゾワする。気持ち良い。

「あぁっ!アァッひっ、ふーッはぁぁっ!」

その唇は乳首までたどり着いて、キスして、吸い付いて、転がして、オレは後ずされない壁に懸命に身体を押し付けて、あんまりのゾワゾワに暴れる手をキラキラ店員が壁に押さえて、絡めて、ギュゥッてして。

「あぅぁっ!」

どぷっ

急に弛緩したオレにキラキラ店員はキョトンとして。
その後すぐにクスクス笑ってオレの前を寛げて。
抵抗も出来ないまま肩で息するオレの耳にちゅってキスして、ビクビクするオレに泣きたくなるような一言。

「キスだけでイっちゃいましたねお姫様?」
「…ッふぅぅ…っ」

どうしようオレは確実にこの変態王子様に目覚めさせられている。
泣きそう。

「可愛らしい私のお姫様」

キラキラ店員はオレの目元にちゅっとキスをすると、あろうことか寛げたオレのそこからナニを取り出してキスを落とした。

「なッなに…っ」

ヂュッ!

「ふぁっ!」
「ふふ、キスざんまいですからね。ここにもいっぱいして差し上げないと」
「あっ、あっ!ひぁっ!アッアッひっふぅぅッ!」

ちゅっちゅっちゅゥーっヂュチュッヂュゥゥッ!

「んひっふぉぉ…っぅんっ!んっ!んっ!んっ!」

玉も裏筋も先っぽも流れるように吸い上げて、口の中で転がして、一度出したそこはあっという間に元気になる。

ぢゅっ、むちゅっヂュゥゥッちゅっ、ぢゅっ、ちゅ、チュゥッ

「アッひぃんっ!あふ、あふっんぁ、ふぉっふぉぉ…ッ!」

それからキラキラ店員はさらに下に下がって行って、足の付け根から太もも、ふくらはぎ、足の甲から指先まで、丹念にキスを落とされた。
まさにキスざんまい。キラキラ店員の唇はあした確実に腫れてるだろう。
オレはというと足の付け根に痕を付けられた時、更には足の親指にキスされた時になぜかイってしまった。
泣きたい。
でもその度に猛烈なディープキスが来るから泣く暇なんてない。

「んっお姫様…ッちゅっぶちゅっ、はっ、私のキスそんなにイイですか?ンッグチュグチュじゅぷっじゅるっ感じる?キス感じちゃう?ぶちゅっむちゅっヂュゥゥッ」
「んは、ふぅぅッんっんんーッ!」

この辺の興奮っぷりにやっぱりキラキラ店員は王子様じゃなくて変態なんだと再確認した。
極めつけにちんぐりがえしでアナルにチュッてされて舌入れられた。
変態だ。

「止めっ、変態ッ!キスって…っ!キスだけってぇ…ッ!」
「んっヂュゥゥッ、ディープキスですよお姫様」

キラキラ笑顔で舌をアナルにうねうねさせる変態。
オレが本気で泣きべそをかいたら止めてくれた。
でも変態のレッテルは剥がさないぞキラキラ店員め。

「うぶなお姫様には少し性急すぎましたね」
「う、ぶじゃない」
「ふふふ、そうですね。あんなにいやらしく感じていましたもんね」

反論したい…けど反論出来なくてけっきょく俯く。
そんなオレをクスクス笑うキラキラ店員。

「お顔が真っ赤ですよ私の可愛いお姫様」
「…あんたのじゃないしお姫様でもないです」
「私のですよ。ほら」

指された方を見てみれば、姿見に映る首から足まで至る所の所有印。
それは服を着ても出てしまうような場所にもあって。

「……………」

思わず鏡越しにギッと睨む。
すると、最初に見た時と同じ、困った顔のキラキラ店員。鏡に映るガラの悪い目。
しまったまた脅えさせてしまった。
いや待て、この変態なら別にいいか。別に。別に。

何となく、何となく俯いてキラキラ店員から顔を背ける。
するとまたしてもキラキラ店員の指がオレの顔をすくい上げて。

「…その目つき、止めてくれません?」

0距離で囁かれたその言葉に、何かが折れそうになった。
というか、折れた。
ぶわり、ガラの悪い目から溢れる。

「眉寄せて睨みつけるその感じ、今となっては快感に堪える健気なお姫様にしか見えないので」

…ちょっと言ってる事がよく分からなかった。
ちゅ、可愛らしいキスが目元に1つ。

「今すぐ目覚めさせたくなるでしょう?オレのペニスに」

一目散に個室から逃げ出した。




「本日のお会計はキスざんまいで500円です」
「えっ、それだけすか…?」
「はい。またぜひお越し下さいねお姫様」
「………………………キっ………キスだけ、なら」


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