俺の声を聞け2
新しいクラスで隣になった男は、なんか卑屈そうなオタクくさいやつだった。
幸先悪いな、と思いつつ隣を見ているとその男と目が合った。
瞬間、もの凄く、嫌そうな顔をされた。
自分を見て嫌な顔されたら当たり前に気分が悪い。
第一印象は最悪だった。たぶん、お互いに。
「おー割といい席じゃん。隣だれ?」
「聞いてくれよ。すっげーイケメンなの。まじ最低なんだけど」
その日の放課後、教室に鞄を取りに戻るとあの男の声がした。
覗いてみるとあの男と、友達なのかもう1人男がいた。
「なに金森とか?」
「しらん。けど嫌みなくらいイケメンだった。イケメンまじ爆発しろ」
「お前なんでそんなイケメンに敵対心抱いてんの?張り合えるとでも思ってんの?」
「あほか!ちげぇよイケメンは存在自体が嫌みなんだよ何だよイケメンって!かっこいいからってバカにすんなよ!」
「バカにされたん?」
「いや、バカにされる前に関わらない」
「関われないの間違いだな」
「うっさいバカバカイケメンまじ爆発しろ!」
陰口でも言われるかと思えば、よく分からない褒め言葉らしきものを貰った。
よく分からないながらも、褒められれば気分がいい。
オレはものの数時間であいつの印象を塗り替えた。
でも最初の一目以降、あいつがこっちを向くことはなかった。それは、卒業までずっと。
ガタッ
と音がして、横を見ると男、鈴木彼方が「なにもありませんが何か?」というように素知らぬ顔で居住まいを正していた。
先生も他の生徒もパッと目を向けただけで直ぐに授業に戻る。
オレも先生に言われた朗読を続けた。
そこでチャイムが鳴り、鈴木の後ろの生徒が鈴木をちゃかす。
「彼方なにどしたん?寝てた?寝てた?寝ぼけてた?」
「うん、若干夢ん中だった」
オレの方は見もしないくせに、後ろの奴と仲良くなった鈴木に何となくイライラした。
「したらすっげーいい声したもんだから飛び起きてしまった。何あれ声優?」
「はぁ?あぁさっきの金森?お前のリアクションに持ってかれて全然聞いてなかったわ」
「オレのあれは忘れようぜ。あれだな、子宮に響く声だった。イケメンで声までいいとかまじイケメン爆発しろ」
「お前子宮あったの爆笑」
周りを囲む仲間や、他の奴らの喧騒の中にいてなお、途中から鈴木たちの声しか聞こえなくなった。
鈴木がオレを褒めてくれた。その事に凄くテンションが上がった。
別に仲がいい訳じゃない。
顔は普通で、卑屈でオタクで、どちらかといえば関わりたくないタイプなのに。
「オレを夢中にさせたんだ。責任取れよ」
髪を撫でて呟いても、彼方から反応はない。
長くない睫毛にたまる涙。
舌を覗かせて白濁を垂らすいやらしい口。
むしゃぶりつくと気絶しながらもオレのシャツを握る指。
その全てが、無性に好きだ。
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