魔王サマ@モブ
「よぉ魔王サマ。勇者一行が近くの街までたどり着いたらしいぜ?」
「ハッ、またか。なにをそんなに死に急いでいるのかな勇者様ご一行は…。その辺のチワワンでも向かわせておけ」
ある日オレは魔王になっていた。
何でだ。知らんわ。
「あぁ?チワワだと?」
「………………お前の耳は飾りなのか?オレはゴリラと言ったが?」
死んで生まれ変わったとかでもないらしい。
死んだ記憶ないし。魔王になる前と同じ顔だし。
どうせなら魔王っぽくワイルドになりたかった。
魔王なのになんで普通だ。むしろなんでオレが魔王だ。
「チッ。まだるっこしい。オレに行かせろ。一瞬でカタつけてやるよ」
「だ…っ!から駄目な…あ、あ、あー、……フン。そう簡単に殺しては詰まらないだろう?せっかくのお客様だ。心行くまでいたぶらなければ、なぁ?」
顔と同じく、思考も普通のままのオレは、とつぜん魔王と言われても世界征服とかまるでする気なかった。
むしろ勇者と和平交渉する気まんまんだった。
だけどオレは勇者たちとの対立を余儀なくされている。
なぜか。
「ハッ、あんま温いこと言ってっと寝首かかれるぞ魔王サマ。特に腹心の部下とかになぁ?」
「ヒ…ッ」
死にたくないからです!
「いーんちょぉ、あんまり脅かしたらカワイソ、…シバかれんで?魔王サマの力には誰も適いっこないんやから、なぁー?」
「そ、そ、その通りだ無礼者!ささっさとゴリラを向かわせんかぁ!」
もうヤダ帰りたい。元の世界に帰りたい。
でも元の世界に帰ってもコイツ等いるんだよオレの学園の風紀委員だから。
部下その1が風紀委員長。
部下その2が風紀副委員長。
ちなみに勇者様ご一行は生徒会だった。
勇者様が会長。
魔術師が副会長。
狙撃手が会計。
騎士が書記。
ついでに言えば、あの学園でのオレの役職は強いて言えばモブだった。
「しっかし、こんだけ学園関係者ばっかやのに何で魔王サマだけちゃうんやろなー」
「さぁな。まぁその方が不慮の事故があっても後味悪くなくていいんじゃねーか?」
「ななんなんの話をしているのかな我が腹心の部下たちよ!!」
そのあまりのモブさに、風紀にも生徒会にも存在を認識されていなかった。
オレは声を大にして言いたい。
ミスキャストにも程がある…!
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