腐男子くんとお友達3


▼腐男子とお友達vol.0.5



お友達視点です



「むっふーむっふーむっふっふー」

お前はなんでそんなに楽しそうなんだ馬鹿。

「キモい」
「スマソ!」

よく分からない鼻歌を歌う馬鹿を一蹴するとすぐさま敬礼が返ってきた。
両手にそんだけ荷物持って敬礼ってある意味器用だな。

「はっ!今日は『ドキッ☆男だらけの住み込みアルバイト〜初出勤で初体験?!』の発売日なんだぜ!」
「ウザい」

本屋の前で思い出して飛び跳ねる馬鹿。
なんだそのタイトル大声で言うなフルで言うなマジうぜー。

「おら、買うならさっさと行くぞ」
「っへ?!かか買っていいんでござるか?!付き合ってくれるんでござるか?!」
「お前がそれ以上荷物増やしたいってんならな」

そわっそわしてる馬鹿に促せばウヘヘってにやけて本屋に入って行く。
キモイな。
しかも大量の手荷物も相まって客がどんどん避けていく。
それでも荷物が本に当たってワタワタしている。
あの荷物でこの本屋は無理があったか。

ちなみにオレはほぼ手ぶらだ。
でもあんな荷物を持ってやる気はさらさらない。


「ムフフ!アキラちゃんはオレの嫁!」

どうにかこうにか買った本をニヤニヤしながら広げて歩く馬鹿。
の本を取り上げてその本で思いっきりひっぱたいてやった。

「ぎゃんっ!やめてアナタっ!」

馬鹿な事を叫ぶ馬鹿をもう一度ひっぱたく。

「カバーがついてるとはいえ公道でなにおっぴろげてんだ馬鹿」
「うぁ…ごめんなんだぜ…」

しょぼんとして叩いた頭を抑える馬鹿。
その後歩き出しても伺うようにこっちをチラチラ覗いてくる。

ウザい。

と思ったオレの空気を察したのか、馬鹿が慌てたように鯛焼き屋を指差した。

「あっあのっあのっ、お詫びに奢るんだぜっ!」

そう言ってオレの返事も待たずに駆け出した馬鹿は、大量の荷物と文庫本に手を塞がれて財布を出すのにモタモタ手間取り、結局見かねたオレが金を出した。
ここでオレが苛立ったのは言うまでもない。


「うへへ、美味いんだぜ」

駅のベンチ。
荷物を置いてオレが買ってやった鯛焼きを幸せそうに頬張る馬鹿。
鯛焼き一つで安い奴だな。

「感謝しろよオレの奢りなんだから」
「っあ、いやっお金っお金払うんだぜ!」
「いらねぇよ」
「あぅ…」

すげなく返せばまたしょげた。
たかが鯛焼きの奢りで焦って、何かっていうと落ち込んで、結局この馬鹿はどっかオレに遠慮したままだった。

違うな。
昔は遠慮なんかしなかったのに。
オレ以外のオトモダチがいなくなってからだ。
こいつにはオレ以外要らないと思ったのに、オレしかいなくなったらこの馬鹿はオレに遠慮し始めた。

自業自得だなと思わず舌打ちをしたら、ビクリと肩を揺らす馬鹿が横目に見えた。

しまった。
こんなはずじゃなかったんだ今日は。
なのにホームには電車が来るってアナウンスが流れて、間が悪いにも程があんだろふざけんな。

「あっ、じゃあオレそろそろ行くんだぜ」
「…おー」

荷物をせかせかと抱えていく馬鹿を横目に、ベンチでポケットに手を突っ込んだままやって来た電車をぼんやりと眺めた。

「あのっ」
「あ?」

声に顔を上げれば、荷物を全部抱えて不格好な馬鹿。
薄い本だか何だかを送るのに必死すぎて衣服の類を送り忘れたらしい。
馬鹿すぎる。

「今日、あのっ買い物とかっ二人でお出かけ出来て嬉しかった、です!」

そうだ。
初めて二人で出掛けたのに、お前の荷物が多すぎて邪魔だとか、行った先が本屋で買ったのがBL本とか

「じゃあオレは萌を探しに行くんだぜ!さようなら友よ…!」

最後はホームでさようならとか

「…ふざけんな!」
「へっ」

電車に乗り込んだ馬鹿が目を丸くした。
発車を告げるピリリという音が遠いところから聞こえてくる。

ふざけんなよ。
学校とか勝手に決めて。
勝手に寮とか入って。
勝手にオレに遠慮とかして。
勝手に名前も呼ばなくなって。
勝手にさようならとか言いやがって。

今日だって、最後だってのに妙に浮かれて楽しそうで。
でももしかしたらそれは、寮に行くのが楽しみだったんじゃなくて、

「『また』だろ馬鹿!」
「…!」

目を見開いた馬鹿とオレの間でドアが閉まる。

オレは柄にもなく電車を追って走って行って、あの馬鹿も荷物ほっぽりだしてドアから顔を覗かせて。
まるで安いドラマのワンシーン。

「いいか、帰って来たら絶対…!」

絶対また二人で出掛けて、買い物もして、この際また鯛焼きはオレが奢ってやるから。

「うんっまたね…!帰ってきたら絶対…!」





電車の窓から顔を出して、あの馬鹿は嬉しそうに笑ってた。
それで十分だなんて思えるほどオレは出来た人間じゃない。

あの馬鹿が帰ってきたら、絶対

『帰って来たら絶対…!向こうの萌の数々を余すことなく報告してあげるんだぜ…!』

「絶っ対泣かす…!」

オレはやり場のない怒りとかやるせなさとか、何か色んな感情のままに叫んでしまった。
おかげで周りに変な目で見られたとかマジあいつ帰って来たら足腰立たなくなるまで泣かせてやる。



END


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