友恋-5-




暫くして、私たちはそれぞれのテントに入った。
チカ、うまく行くといいな。
そう思いながら横になると、ミヤくんの賑やかな声が聞こえる。

「なんじゃぁ、雛美ちゃんはしっこで寝るんか?」
「寝相悪かったら恥ずかしいからねー。」
「ハッ、寝る時くらいおとなしくしてろっての。」
「じゃぁワシ真ん中で寝るけェ、いくらでもくっついてええよ。」
「なっ、てめ待宮ァ!」
「なんじゃ?」
「テメーの横なんて汗臭くて寝れねェ。雛美は大人しく真ん中で寝てろっての。」

ふいに名前を呼ばれて驚いた。
荒北くんが私のことを名前で呼んでくれたの、初めてじゃないのかな。
ドキドキと高鳴る胸は、返事をすることすら忘れさせてしまう。
ポーッとしている私の顔を覗き込むようにして、荒北くんは顔を近づけた。

「聞いてんのォ?」
「え?あ、うん!聞いてる聞いてる。私が真ん中で寝ればいいんだよね?」
「ん。わかってんならいいけどォ。」

そう言って荒北くんは私が居た場所に陣取り、さっさと横になってしまった。
私も真ん中に移動して横になる。
反対側ではミヤくんが横になっていて、なんだか変な気分だ。
考えてみれば男の子に挟まれて寝るなんて初めてことで、だんだん緊張してきた。
ちらりと荒北くんを見れば背中しか見えず、スースーという寝息のような音がしている。
反対側に顔を向けるとミヤくんと目が合った。
暗いテントの中では表情はちゃんと見えないけど、独特な笑い声がする。

「エッエッ、今日は楽しかったのぅ。」
「うん、楽しかったぁ。思ってたよりも大変じゃなかったし。」

それはみんなが色々と準備をしてくれたからだ。
今日はしてもらってばかりだったな。
いつか私も何かでお返しできるといいな。

「今度は花火でも観に行こうやぁ。」
「いいね、またみんなで出かけたい。」
「みんなで、か。雛美ちゃんは浴衣着るんじゃろ?」
「そうだね、花火とかお祭りの時くらいしか着れないし……あ、でもそろそろ新しいのも欲しいなぁ。」

ポツリポツリと浮かんでくる話をしていると、気づけば相槌がなくなっていた。
ミヤくんの方へ目を凝らすと、どうやら寝てしまったらしい。
スースーという寝息が二つ、静かなテントに響いていた。
今日は本当に色々あった。
最初は感じ悪いと思ってた荒北くんもいい人だったし、ミヤくんもノリが良くて楽しいし。
チカと金城くんはいい感じだし、本当に来てよかった。
そう思いながら目を閉じると、カサカサという嫌な音が耳に入る。
キャンプなのだから虫の音は仕方ないと思いつつも、それがいつか中に入ってくるんじゃないかと思うと気が気じゃなかった。
カサカサ、ガサガサ。
草木の揺れる音に混じって、テントをひっかくような音さえする。
入り口はちゃんと閉めた、だけど虫が入れる隙間はある。
寝ている時に入ってきたら……?
顔の上を這ったりなんかしたら。
嫌な予想は膨らむばかりで、誰も止めてはくれない。
何度寝返りを打って耳を塞いでも音が遠のくことはない。
体を縮こませていると、ふっと何かが顔に触れた。
慌てて払いのけると、それは荒北くんの手だった。

「あ、ごめっ……。」
「大丈夫かよ。」
「え、あ……あんまり……。」

荒北くんはため息を一つつくと立ち上がり、私の手を引いてテントの外へと連れ出した。
辺りは真っ暗で、何も見えない。
虫の音色があちこちから聞こえていて、私は思わず足を止めてしまった。

「大丈夫だ、こい。」

荒北くんはそう言って私を引き寄せると、また歩き出した。
一体どこへ行くの?
疑問は虫の羽音にかき消されて、声になることはなかった。


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