友恋-6-




不安と恐怖でドキドキして心臓がどうにかなりそうだ。
足に触れる草すら、虫なんじゃないかと錯覚してしまう。
色んな鳴き声が混ざり、もう何の声だかわからない。
静かな夜に虫の鳴き声と私たちの足音だけが響いている。
少し歩くと、荒北くんは車の前で立ち止まった。
そして助手席のドアを開けて私を中に押し込んだ。

「ちょっとそこで待ってろ。」
「えっ?」

それだけ言うとドアを閉めて、今度は後部のスライドドアを開けた。
ガサガサと後ろで音がするけど、何をしているのかは暗くてよく見えない。
目をぐっと凝らしているとガタンという音がして、荒北くんが顔を覗かせた。

「もういいよォ。」

わけが分からない私に、荒北くんはクスリと笑った。

「靴、脱いでこっちこいよ。」

より近づいた顔はとても優しげで、さっきまでの不安が薄れていく。
私は言われるがまま靴を脱ぎ後ろへと移動した。
目を凝らしてみると、後部の座席は倒されてフラットになっている。
そこに荒北くんは寝転がっていて、私を手招きしているように見えた。

「ここなら虫こねェだろ。」
「あ……うん。ありがとう……。」

荒北くんの横に寝そべると、バスタオルを渡してくれた。
確かにここなら虫の音も気にならないし、入ってくるかもしれない不安に襲われることもない。
もしかしてさっきも荒北くんは寝たふりをしていただけで、本当は寝ていなかったのかな。
バスタオルを口元までかけてチラリと荒北くんを見ると、目が合ってニッと笑った。
そういえば、荒北くんは何でキャンプに来たんだろう。
昼間ミヤくんと話したことがふいに浮かんで、私は聞いてみることにした。

「ねぇ、荒北くんはどうしてキャンプに来たの?」
「アァ?金城に誘われたからに決まってんだろ。」
「でもミヤくんの話だと渋ってたって言ってたけど……。」
「ったく、あいつらしつけぇんだよ。」

とてもめんどくさそうにそう言うと、荒北くんは天井を向いてしまった。
視線が外されたことに妙な寂しさが募る。
あれ、私なんで寂しいんだろう。
自分の気持ちがよくわからないまま、私は会話を続けた。

「じゃぁ金城くんたちがしつこくなかったら来なかった?」
「あたりめェだろ。」
「チカが来てても?」
「それは……。」

言葉に詰まった荒北くんはチラリと私を見て、すぐに視線を逸らした。
そして小さなため息をついて背を向けてしまった。

「もういいだろ、寝ろよ。」
「……荒北くんは、チカが好きなの?」

つい出てしまった言葉、言うつもりじゃなかった言葉。
それを聞いた荒北くんは勢いよく起き上がり、天井に頭をぶつけてしまった。

「ハァ!?  いってぇ……。」
「だ、大丈夫?」
「大丈夫じゃねェよボケナス。何言ってんだテメーは。」
「え、だって……。」

荒北くんは不機嫌そうに私の顔を覗きこみ、舌打ちする。
睨みつけるようなその視線に、昼間ミヤくんと話した内容を説明した。
聞き終えた荒北くんはまたため息をついて、私の方へ向き直る。

「あのなァ。俺はお前が来るとふんで来たんだっつの。」
「……私?」
「そォだよ。」

荒北くんはガシガシと頭をかいて、さらに私に顔を近づけた。

「テメーがいなきゃくるかよ、こんなとこ。」
「え、でもチカしかこないかも知れないでしょ?」
「ハッ、チカチャンくるならくんだろ。いつも一緒にいんじゃねぇか。」
「なんで知って……?」
「……いつも見てちゃ悪ィかよ。」

荒北くんは吐き捨てるようにそう言うと、背中を向けて横になってしまった。
それって一体、どういうこと?
頭の中が混乱する。

「あ、荒北くん?」
「ッせ!もう寝ろ。」
「え、でも」
「俺は眠ィんだよ!黙ってろ。」

そう言い残して、荒北くんはバスタオルを頭までかぶってしまった。
勘違い、じゃないのかな。
少しして隣からスースーと寝息が聞こえてきても、私の頭はふわふわとして中々眠れなかった。




目が覚めると荒北くんはいなくなっていた。
車から出ると遠くで楽しげな声がする。
その声を辿って行くと、もうみんな起きていた。

「おはよう、雛美。遅かったね、大丈夫?」
「おはよ、大丈夫だよ。ありがと。」

幸せそうに笑うチカは私にウィンクして見せた。
上手く行ったのかな。
それにつられて私も顔が緩む。

「雛美ちゃん!おはようさん、昨日はどうしたんじゃ?」
「あ、ごめんね。虫の音が怖くて……。」
「そうかー、気がつかんくてすまんかったのう。ちゃんと眠れたんか?」
「うん、大丈夫たよ。ありがとう。」
「ほうか。」

ミヤくんは嬉しそうに笑い、私に朝食を渡してくれた。
荒北くんは……辺りを見回すと、金城くんと何やら話をしているようだ。
楽しげなその雰囲気に、何だか羨ましくなる。

「どうしたんじゃ?」
「ううん、なんでも!何の話だっけ?」
「花火じゃ。どこの花火がええんかのう。あんまり遠いところは大変じゃろ。」
「あー、そうだねぇ。チカはどう思う?」

ミヤくんは次々と遊ぶ計画をしてくれて、私たちもそれに相槌を打つ。
見る見るうちにたくさんの予定ができて行った。
後から来た二人はその計画を聞いてため息をつく。

「そんなにいつ遊ぶんだ?」
「そんなにいつ遊ぶんだよ!」

声が揃った二人にひとしきり笑った後、ミヤくんはニッと笑った。

「毎日でも遊んだらええじゃろ、部活のあとでも。なぁ、荒北?」
「なっ、なんで俺に聞くんだよ。」
「金城もええじゃろ?」
「まぁ、俺は構わないな。チカちゃんさえ良ければ。」

そう言ってチカに笑いかける金城くんの表情はとても優しくて、愛しそうな目が細められて行く。
その顔はまるで昨夜の荒北くんのようで私は鼓動が早まった。
思い違い、じゃないのかな。
疑問が確信へと近づいて行く。
そんな私を引き寄せて、ミヤくんが耳打ちをした。

「みんなで遊ぶんもええけど、たまには2人で遊ぼうやぁ。」

ニッと笑うその表情の真意はわからない。
言葉のまま受け取っていいのか悩む私を、今度は荒北くんが引き寄せた。

「あんまくっついてんじゃねェよ。」
「別にええじゃろ。」
「よかねェ。」
「なんでじゃ!」

二人の言い合いは激しいのにどちらも引かず、そのやりとりはとても楽しかった。
初めはキャンプなんてうんざりだと思った。
付き合いだから仕方が無いと。
まさかこんなことになるなんて、思っても見なかった。
嫌いだった夏が今年は楽しくなりそうだ。
私たちの想いはいつかどこかで交わることが出来るだろうか。
それはまだ誰も知らない。



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