友恋-4-




遊び疲れた私たちは着替えてからテントで仮眠をとった。
少し大きめのテントと、それよりワンサイズ小さいテント。
私とチカは小さい方のテントを借りていたけど、どうやらあちらではまたも攻防戦が繰り広げられていたらしい。
男三人では狭すぎたようだ。
荒北くんは一人、車に戻って寝ていた。
それを踏まえて、夜はテントを変えることにした。
私とミヤくんと荒北くんは大きい方、そしてチカと金城くんは小さい方。
最初は遠慮していたチカも、"テントの事情なら"と受け入れてくれた。
これでチカたちが進展するといいんだけど。
夕飯は金城くんが焼きそばを作ってくれて、私と荒北くんはまた片付けを担当した。
辺りも暗くなり、街灯のない川辺はとても静かだった。
川のせせらぎと、虫の音色だけが優しく響いている。
ただ昼間よりも昆虫が増えてきたのか、近くで羽音がするたびに私は小さな悲鳴を上げていた。

「ヒッ!」
「どうしたんじゃ?」
「や、なんか虫がいて……苦手なんだよね。」
「ほいじゃ虫除けしといたらどうじゃ?気休めかもしれんがの。
「そうする、ありがとー。」

虫除けが果たして昆虫に効くのかはわからない。
だけどしないよりマシだろうと思い、私は身体中に吹き付けた。
それを見て荒北くんは眉間にシワを寄せる。

「何してんだテメー。」
「や、何か虫増えてきたから……。」
「何、虫怖ェのォ?」
「う、うん。」

ニヤリと笑った荒北くんに、何だか弱みを握られてしまった気分だ。
まさか虫捕まえてきたりしないよね……?
そう思っていると、チカの悲鳴が聞こえる。

「きゃぁ!待宮くんだめ!私苦手だから!」
「なんじゃ、嫌いなんか。」
「待宮、離してやれ。」

嫌な予感がしつつも振り返ると、ミヤくんの手元に黒い何かがいるのが見えた。
背中がスーッと冷めていく。
動けずに固まっていると、ミヤくんと目が合ってしまった。
ヤバい……。

「雛美ちゃん、見てみぃ。カブトムシじゃぁ。」
「ヒッ……!」

見せられたそれは予想通り昆虫で、しかも大きい。
近づいてくるミヤくんから逃げたいのに足が動かない。
誰か助けてっ。

「おい、やめろ。」
「え?なんじゃ?」
「コイツも虫嫌ェなんだよ。」

ミヤくんの前に立ちはだかるように、荒北くんは私の前に立った。
おかげで虫は視界から消えて少し頭が動くようになった。
ミヤくんには悪いけど、ダメなものはやっぱりダメだ。

「なんじゃぁ、カブトも怖いんかぁ。しゃぁないのう。」
「ご、ごめんね。虫全般ダメで……。」

ミヤくんはそう言うと少し離れた木にカブトムシを持って行った。
そこまでしてやっと緊張が解けて、私は胸をなでおろした。
ふと見上げると荒北くんが私に向き直っていて、目が合うと顔を覗き込まれた。

「平気か?」
「あ、うん。ありがとう、すごく助かった……。」
「嘘つけ、顔真っ青じゃねェか。」

そんなに具合が悪い感じはしないけど、確かに万全とは言い難い。
近くで羽音がする度にさっきのカブトムシを思い出してビクビクしてしまう。
そんな私を気遣ってか、荒北くんは近くの椅子に座らせると冷たいドリンクを手渡してくれる。

「暫く休んでろ。虫は寄ってこねぇようにしてやっから。」

荒北くんは私の周りに虫除けの煙を焚いてくれた。
その匂いはちょっと強烈だったけど、さっきより羽音が気にならなくなった。
何だか、最初の印象と違いすぎてまるで別人のように見える。
荒北くん、最初はどうしてあんなに不機嫌だったのかな。
落ち着いた私の中には、疑問だけが浮かんでは消えて行った。


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