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「……階段っつーものを、知らねぇのか…てめーは」
「文句言うなよ、急がせたのはグレイだろ?」
オレは絶え絶えになりながらも、そう言った。
…突き破られた上の階と下の階の仕切りから現れたのは、紛れも無い奴で。
盗賊団の奴らはみんな面食らっていた。
「…何してたんだよ」
「暴れたらグレイに怒られっかなーって思ったから、ちゃんと1人ずつ倒してたんだよ」
…オレがこんな状態になってる時に、よくまぁそんな悠長に…。
オレがナツを睨めば、ナツはオレをまじまじと見る。
「…で、いいざまじゃねーの。グレイの新しい趣味か?」
「……てめぇ、冗談でも許さねぇぞ…」
「そっか」
ナツは安心したかのように笑うと、次の瞬間には全く違った笑みとなる。
「……じゃあ、遠慮なしにこいつらぶっ飛ばしてもいいんだな…?」
ナツがそう言って構えをとれば、固まっていた盗賊達がやっと我に返った。
「!!――…ふざけんな!こっちには人質がいるんだぜ!?」
「っぅあ!」
怒鳴るようにそう言い放ったかと思うと、オレを無理矢理立たせる。
…立たせたっつっても、オレは力入らないから引っ張られてる状態。
「くっ…!」
いきなり動かされたせいで、さっき蹴られた横腹に激痛が走る。
「……なぁ、グレイ」
「…んだ、よ…」
こんな状態で普通に声をかけてくるナツ。
……けど、その表情は今までに見たことのないものだった。
「…おまえ、熱いの堪えられるか?」
……あぁ、成る程…。
…オレが、熱いの苦手って知ってるもんな。
「……少し、なら」
他に方法はないんだ。
オレは仕方なしに承諾して答えた。
「おし、後は任せとけ」
ナツはそう言うと、両手に魔力を込める。
「!!――…お…おい!何する気だ…!?こっちには人質がいるんだぞ!?」
その様子に慌てた盗賊達は、オレを差しながらそう言う。
けど、ナツは止まらない。
「…てめーらは、フェアリーテイルに上等くれてんだぜ…?」
ゆっくりと、ナツの両手が広がる。
「おまけにオレの大切な奴を傷つけてんだ!――黙ってられっかよ!!」
ナツの怒号と共に、炎が広がった。
* * *
* * *
「…あっちぃ…」
「…だから悪かったって」
オレはナツに背負われた状態で、文句を連発していた。
あのあと、盗賊団は全滅。後のことは依頼人に任せてきた。
…建物は全焼。死人は0人。火傷の負傷者は…オレを含め100人は越えただろう。
「…ったく、魔法が使えれば氷造れんのに…」
「取れなかったもんな…それ」
オレの左足首には、あのアンクレットがついたまま。解除方法がわからなかったオチだ。
…こいつはじーさん辺りがなんとかしてくれるだろ。
おかげで左足の麻痺が治らないせいで、オレは歩けない。
そのせいで、ナツにおんぶ状態だ。
……まぁそれ以前に、歩ける状態じゃないんだけどな。
「……痛むか?」
「んあ?」
「火傷」
「…あー……」
…そりゃあ火傷なんだ。痛くないはずはない。
……けど、それはナツのせいではない。
「…平気だって。火傷より横腹の方がいてぇし…」
「…グレイ」
……横腹は大の男に思いっ切り蹴られたんだ。
…痣が残るかもな。
「…無理しやがって」
「してねーよ」
ナツの言葉にそう返してやれば、ナツは不服そうな顔でオレを見た。
「…じゃあ、なんであんなこと言ったんだよ」
「あんなこと…?」
ナツの言葉に、オレはなんのことか解らなかった。
よほどきょとんとした顔をしていたのだろうか、ナツがため息をついて声を出す。
「てめーには聞こえるだろ。とか、グレイ言ってただろ?」
「……っ!!」
…あぁ…あのことかよ…!
「オレ、あんなの初めて聞いたんだけど。まさかグレイが―――」
「だーっ!言うな!言わなくていい!!」
「あ?なんで」
「なんでって…あの時は精一杯だったんだよ!もう忘れろ!!」
「無理」
「てめーなぁ…!」
「…あー、はいはい」
これ以上言うとオレが本気で怒ると思ったのか、ナツはやっと引き下がった。……かと思えば。
「あれはオレ達だけの内緒ってことだな!」
……眩しいほどのナツの笑顔に、もう何も言う気力はなくなった。
(君に「たすけろ」なんて、初めて言われた)
(…いつもあんぐらい素直だといいんだけどな)
(…ほっとけって言ってんだろ)
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