灰李様から!
「っ」
その美しい色を見る度俺は呼吸が出来なくなる。
その朱は俺の大切な人達を奪った魔物だから。
「グレイ?」
ナツが慌てて駆け寄ってくる。ナツのことは大好きだ。
いつでも俺を大切に扱ってくれる。
俺の寂しさを埋めてくれる。
だから、言えない。この症状は。
「大丈夫だ。最近ちょっと疲れ気味なんだ」
嘘をついて遠ざける。
依頼や夢中で喧嘩している時は気にならないから大丈夫なんだが、一度目につくとこういう発作に襲われる。
わかってる。乗り越えなきゃいけないことは。
「ナツ」
「何だ?」
「キスして」
首に腕を伸ばす。
大分楽になった。
でも、まだ完全じゃない。
浅いものからだんだんと深く口づけを交わす。
もしかしたらナツはこのことに気づいているかもしれない。
知っていて俺の口から聞くのを待っているのかもしれない。
なんて都合のいいことを考えて一人心の中で苦笑する。
「珍しいな、おまえから甘えてくるなんて」
「今日はそんな気分なんだ」
ここがギルドであることを忘れてまたキスをする。
呆れた視線があちこちから。
「視線が痛い」
「んじゃ、俺ん家行くか」
ナツはニカッと笑うと俺の手を掴みギルドを出ていく。
こうしてナツといれて幸せだ。
幸せな半面、あの朱を見ると震えが止まらない。
呼吸もままならない。
ナツに話さなきゃいけない。
でも、これがナツを傷つけてしまうかと思うと怖くて怖くてしょうがない。
「グレイ?」
「ううん」
邪念を振り払い、ナツの腕に抱き着く。
今は幸せでいたい。
俺を愛してくれるナツと一緒に。
わがままかもしれない。
だけど、俺は一緒にいたいんだ。
「なあ、ナツ」
「ん?」
「俺さ、ナツに言わなきゃいけないことがあるんだ」
遠くに見える燃え上がる朱。
イヤダ。ヤメテ。オレノタイセツナヒトヲコレイジョウウバワナイデ。
「うわああああああああああ!」
燃える家。俺を逃がす父さんと母さん。震える体。呼吸を止めようとする器官。逃げなきゃ。あの朱から逃げなきゃ。
「グレイ!」焦ったようなナツの声。
背中を撫でる温かな手。
自然と呼吸が楽になる。
「大丈夫か?火事ならさっき鎮火したらしいぞ?」
ナツはただ火事が怖いのだと思ったようだ。
「違う。怖いのは…」
声がでない。
唇だけそれを紡ぐ。
ああ、俺は何と残酷んだろう。
ねえ、あなたはこんな俺をいつまでも愛してくれますか?
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