裏口は鍵がかかっておらず、侵入するのは簡単だった。
誰にも気づかれないようにそっとドアを閉め、近くにあったやたらでかい酒樽の裏に身を隠す。


「…やっぱ、それなりに人数が居るな…」


これだけの人数が居ると、あまり動き回ることは出来ない。


「こっちは期待出来そうにねーな…。こりゃあナツ次第だな」


そう呟いてみたが、手ぶらで引き上げるわけにはいかない。
オレは物陰を利用しながら、カウンターの裏に忍び込んだ。
大抵のギルドは、カウンターに色々な書類が置いてある。
もしこの盗賊団が闇ギルドと接触しているのなら、そういったものもカウンターの方にあると思ったからだ。


「…さて、と。何処にあるんだ…?」


……オレがその場でしゃがんでいた体勢を変えようとした時。

カシャン―――。


「――っ!?」


自分の左足首に、何やら金属質のものがはめられた音がした。


「なっ…!?」


足首に目を遣れば、それは金属のアンクレットのようなもので。


「おまえ…魔導師か?」「!!」


顔を上げれば、盗賊団の1人であろう男がオレを見下ろしていた。
――――見つかった。
……仕方ねぇ、な。
オレはその場で魔法を発動させる構えを取る。


「…アイスメイク…――っ!?」


魔法を発動させようとした。
…けど、魔力が集まらない。


「…なん、でだ…!?」


オレは訳がわからない顔で男の顔を見上げれば、そいつは怪しく笑っていて…。


「…このアンクレットか…!!」


気づいた頃にはもう遅く、オレはその男に取り押さえられた。


「ぐっ!!」

「おい!魔導師の侵入者だ!!」


右腕を思いっ切り捻り上げられて、腕が軋む。……いてぇ…!

…間違いない。魔法が使えないのは、このアンクレットのせい…魔法具だ。
盗賊団が魔法具なんて持っているはずはない。
…闇ギルドと接触があったのは、確定だ…!!


「――っ、離しやがれ!」

「うぉっ!」


オレは取り押さえられた身体を自由にするべく、腕を掴んでいた男を蹴り飛ばした。
…魔法が使えなくても、そこらの奴には勝てる自信はある。


「なんだ!あいつ!!」

「気をつけろ!魔法が使えなくても強いぞ!」


オレを取り囲んだ盗賊達が、戦闘体勢に入る。
…とりあえず、ここから出ねぇと…!
入口へ一番近いルートを見つけ、そこを走り抜けようとした時――。


「あっ…!?」


途端に左足に痺れが走った。
左足……魔法具のせいか…!!
オレがよろけた隙を盗賊達が見逃すわけがなく、オレはまた取り押さえられた。


「!?――っこんの…!」

「おい!腕をしばれ!!動けねぇようにするんだ!」

「つっ!」


取り押さえられた状態で抵抗しても、相手には大した支障にはならなかった。


「――…くそっ…」


…さっきナツに足手まといになるなと言われたばかりなのに。
早速足手まといじゃねぇか……。
自分の失態に、思わず自嘲の笑みが零れた。


「んっ…!!」


どうにかして腕の縄でも解けないかと腕を引っ張ってみたが、ばかでかいテーブルに結び付けられていては無理そうだった。


「…離せよ!」

「誰が離すかよ。……で、こいつどうする?」

「…そうだな…いい顔してっし、奴隷にでも売れば金になるんじゃねぇか?」

「っ!!」


奴隷…!?……さすが盗賊ってか。人でも売り飛ばすのかよ…!


「――ふざけんな!誰が!!」

「てめーは黙ってろ!」

「っく!」


そう怒鳴られたかと思うと、頬に衝撃が走った。
…殴られたんだ。


「ばか。売るんなら顔に傷つけんなよ、値が落ちるだろ」

「わりぃ、ついな。……顔じゃなきゃ、傷つけてもいいんだよな?」

「……そうだな。服で隠しときゃいいし」

「なっ…!?」


盗賊達の話しを聞いて、悪い予感しかしなかった。
…そして、その予想が外れるわけもなく。


「うあっ!」


横腹を思いっ切り蹴られて、息が出来なかった。


「…げほっ、…う」

「おい、やりすぎんなよ。動かなくなっちまったら商品も何にもなんねーからよぉ」

「そこまではやんねーよ」


…口の中に血の味がして、吐きそうになった。
……何してんだよ、あいつは…。


「…てめーは、耳良いだろ…」

「あ?…何言ってんだ、こいつ」


オレが何を言っているのか理解ができない盗賊の1人が、頭に疑問符を浮かべた。


「…てめーなら…聞こえんだろ…!?」


……オレは誰も聞き取ることができないほど小さな声で、言った。


「――…    、ばかナツ――…!」


上の階から爆音が聞こえたのは、それとほぼ同時だった。






















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