2
裏口は鍵がかかっておらず、侵入するのは簡単だった。
誰にも気づかれないようにそっとドアを閉め、近くにあったやたらでかい酒樽の裏に身を隠す。
「…やっぱ、それなりに人数が居るな…」
これだけの人数が居ると、あまり動き回ることは出来ない。
「こっちは期待出来そうにねーな…。こりゃあナツ次第だな」
そう呟いてみたが、手ぶらで引き上げるわけにはいかない。
オレは物陰を利用しながら、カウンターの裏に忍び込んだ。
大抵のギルドは、カウンターに色々な書類が置いてある。
もしこの盗賊団が闇ギルドと接触しているのなら、そういったものもカウンターの方にあると思ったからだ。
「…さて、と。何処にあるんだ…?」
……オレがその場でしゃがんでいた体勢を変えようとした時。
カシャン―――。
「――っ!?」
自分の左足首に、何やら金属質のものがはめられた音がした。
「なっ…!?」
足首に目を遣れば、それは金属のアンクレットのようなもので。
「おまえ…魔導師か?」「!!」
顔を上げれば、盗賊団の1人であろう男がオレを見下ろしていた。
――――見つかった。
……仕方ねぇ、な。
オレはその場で魔法を発動させる構えを取る。
「…アイスメイク…――っ!?」
魔法を発動させようとした。
…けど、魔力が集まらない。
「…なん、でだ…!?」
オレは訳がわからない顔で男の顔を見上げれば、そいつは怪しく笑っていて…。
「…このアンクレットか…!!」
気づいた頃にはもう遅く、オレはその男に取り押さえられた。
「ぐっ!!」
「おい!魔導師の侵入者だ!!」
右腕を思いっ切り捻り上げられて、腕が軋む。……いてぇ…!
…間違いない。魔法が使えないのは、このアンクレットのせい…魔法具だ。
盗賊団が魔法具なんて持っているはずはない。
…闇ギルドと接触があったのは、確定だ…!!
「――っ、離しやがれ!」
「うぉっ!」
オレは取り押さえられた身体を自由にするべく、腕を掴んでいた男を蹴り飛ばした。
…魔法が使えなくても、そこらの奴には勝てる自信はある。
「なんだ!あいつ!!」
「気をつけろ!魔法が使えなくても強いぞ!」
オレを取り囲んだ盗賊達が、戦闘体勢に入る。
…とりあえず、ここから出ねぇと…!
入口へ一番近いルートを見つけ、そこを走り抜けようとした時――。
「あっ…!?」
途端に左足に痺れが走った。
左足……魔法具のせいか…!!
オレがよろけた隙を盗賊達が見逃すわけがなく、オレはまた取り押さえられた。
「!?――っこんの…!」
「おい!腕をしばれ!!動けねぇようにするんだ!」
「つっ!」
取り押さえられた状態で抵抗しても、相手には大した支障にはならなかった。
「――…くそっ…」
…さっきナツに足手まといになるなと言われたばかりなのに。
早速足手まといじゃねぇか……。
自分の失態に、思わず自嘲の笑みが零れた。
「んっ…!!」
どうにかして腕の縄でも解けないかと腕を引っ張ってみたが、ばかでかいテーブルに結び付けられていては無理そうだった。
「…離せよ!」
「誰が離すかよ。……で、こいつどうする?」
「…そうだな…いい顔してっし、奴隷にでも売れば金になるんじゃねぇか?」
「っ!!」
奴隷…!?……さすが盗賊ってか。人でも売り飛ばすのかよ…!
「――ふざけんな!誰が!!」
「てめーは黙ってろ!」
「っく!」
そう怒鳴られたかと思うと、頬に衝撃が走った。
…殴られたんだ。
「ばか。売るんなら顔に傷つけんなよ、値が落ちるだろ」
「わりぃ、ついな。……顔じゃなきゃ、傷つけてもいいんだよな?」
「……そうだな。服で隠しときゃいいし」
「なっ…!?」
盗賊達の話しを聞いて、悪い予感しかしなかった。
…そして、その予想が外れるわけもなく。
「うあっ!」
横腹を思いっ切り蹴られて、息が出来なかった。
「…げほっ、…う」
「おい、やりすぎんなよ。動かなくなっちまったら商品も何にもなんねーからよぉ」
「そこまではやんねーよ」
…口の中に血の味がして、吐きそうになった。
……何してんだよ、あいつは…。
「…てめーは、耳良いだろ…」
「あ?…何言ってんだ、こいつ」
オレが何を言っているのか理解ができない盗賊の1人が、頭に疑問符を浮かべた。
「…てめーなら…聞こえんだろ…!?」
……オレは誰も聞き取ることができないほど小さな声で、言った。
「――… 、ばかナツ――…!」
上の階から爆音が聞こえたのは、それとほぼ同時だった。
[ 6/8 ][*prev] [next#]