君が素直になる時
「足引っ張るんじゃねーぞ、グレイ」
「…それ、仕事に誘った奴が言うセリフか?」
オレが不満げにそう言えば、ナツが「気にすんな!」なんて言ってくるから軽く目眩がした。
ここは、とある街外れのあまり舗装されていない道。
今日は珍しく、ナツと2人だけの仕事だった。
闇ギルドと接触していると情報が入った盗賊団を調べることと、場合によっては捕獲だ。
…この仕事、本来はナツが1人で行く予定のものだった。
けど、ナツがじーさんに「お前が1人だと歯止めが効かなくなるから、せめてもう1人連れていけ」って言われたらしく…オレが誘われたわけだ。
…まぁ、オレも暇だったから承諾したわけだけど。
「…あー、なんか今更だけどめんどくさくなってきたな…」
「嫌なら帰ってもいいんだぜ?負け犬グレイ!」
「お、まじで?じゃあオレ帰るわ」
「へ?あっ、おい待てって!オレが悪かった!!」
オレがナツの挑発を無視して帰ろうと踵を返せば、ナツが慌てて抱き留めてきた。
…まさか抱きしめられるとは思っていなかったオレの顔は、恐らく真っ赤だろう。
「……冗談だっつの。ばかナツ」
相変わらずぎゅうぎゅう抱きしめてくるナツにそう言えば、やっとオレを拘束していた腕が離れる。
「…ほんと素直じゃねぇよな、おまえ…」
「ほっとけ」
オレは素っ気なくそう返したけど、ナツの顔はにまにま笑っていて。
「……ったく」
オレが赤くなった顔を見られたくなくて進行方向へと目を遣れば、奥に建物が見えていた。
「…あれか?盗賊団の根城ってのは」
「おっ、そうみてぇだな。結構な人数の臭いするし」
オレの言葉に、ナツが自分の鼻を指差しながらそう答える。
…相変わらず便利な奴だな。
オレ達は中に居る奴らに気づかれないよう、茂みに身を隠しながら建物の前まで来た。
…結構でかいな、この建物。
オレがそんなことを考えていると、不意にナツが立ち上がった。
「ナツ?」
「おし!一暴れしてやんぞーっ!!」
「はぁ!?おい!待てよばかナツ!!」
「おぅっ!?」
オレの声に構わずに建物の中に入ろうとするナツのマフラーを引っつかんで茂みに引き戻せば、ナツは息が詰まったような声を出す。
「――っ、なんだよ!殺す気か!!」
「なんだよって…おまえ、ちゃんと依頼内容見たか?」
「内容って…この盗賊団の捕獲だろ?」
「その前に、この盗賊団がほんとに闇ギルドと関係が調べなきゃなんねーんだよ!」
「あ?…そうだったか?」
「……………」
……呆れた。…こいつ、ろくに依頼書に目を通してねぇ。
…1人でこの仕事に来させなくて正解だったわけだな。
オレは仕切り直すように息をつき、ナツに目を遣る。
「いいか?ナツは目も耳もいいから相手と距離があってもある程度なんでもわかるだろ?」
「あ、おう!つーか、なんでもわかるって」
「それを使うんだ。ナツ、おまえは屋根裏から2階の様子を調べろ。オレは裏口から入って1階の方見るから」
「わかった。……でも、それってグレイが危なくねーか…?」
…心配げにそう言うナツが、オレの頬に手を当てた。
……そんなナツの姿に、オレは思わず笑みが零れた。
「…ばーか、オレを誰だと思ってんだよ。少なくとも、ナツよりは敵にバレない自信はあるぜ?」
皮肉気味に言ってやれば、ナツも「それもそうだな」と言って笑って。
「…行くぞ!」
「あぁ!」
オレ達はそう言って二手に別れ、建物へと向かった。
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