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「今日はありがとう!なかなか楽しかったよ」
謙也以外の男の子と手繋いじゃったしね。にこやかに先ほどまで繋がれていた手をひらひらと躍らせる。
私の家の前、時刻は3時半。少々早い帰宅時間ではあるが行きが早かったせいか中々充実した時間だった。白石もわりと満足そうにええよ、と笑う姿を見る限り今日はショッピングに付き合ってもらってよかったと思う。本当に気分転換にもなったし、まず白石とまた仲良くなれそうな気がしたから。
「せっかくやし少し話さん?」
「ちょっと帰ってくるの早かったかもね、ここでいい?」
頷く白石に盛大に息を吐きながらアスファルトの上に腰を下ろして空を見上げた。なかなか今日はくたびれた。足は程よい気だるさを残している。
「お疲れさん」
「白石も。わざわざ買い物付き合ってくれるなんて思いもしなかった」
「たまには買い物もええな、楽しかったで」
腰を下ろした先、春の温かい陽気でもまだアスファルトは冷たく、お尻を服越しに冷やす。それがあと3ヶ月もすれば座り込むことなんて出来ないほどに熱くなるのだから季節とは不思議なものだ。
小学生の頃、よくこうやって私の家の前の駐車場で座り込んで、たまには寝転んで、その日あった学校の話や家の話、愚痴や相談だったりくだらない話をしたのは懐かしく綺麗な思い出である。
「それで?なんで記念日知ってたの?」
「まさか今このタイミングで来たか!」
「ふと思い出して」
今朝のやりとりを思い出してつい尋ねてみれば面白い反応が返ってくる。
おさらいしておくと今朝ここで出会った白石は、謙也に今日が私たちの記念日だと聞いていたと白々しい嘘をついたわけだが、ものの数十秒でバレていた。別に気にならないといえば気にならないが、ここまで気持ちいい反応を返されると突っつきたくもなるよね。
「せやから…見逃してくれへん?」
「それは無理な願いだなぁ」
「んん、困ったなぁ」
本当に困ったように頭をかく白石に笑みを浮かべる。こんな風に昔はよく白石の事をからかって遊んでいた。いつの間にか離れてしまっていた距離も、今日ばかりはあの頃に戻れたような、そんな錯覚さえも起こしてしまうほどに心は浮き足立っていた。
「そんなにいえない事?」
私と謙也の記念日を知っていた理由。
問い詰めれば問い詰めるほどに理由を話してくれないわけに疑問が湧く。そんなに隠したいことでもあるのかと勘ぐってしまうのはおかしいのだろうか。
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