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「……まぁ、そんなことはええやん。せっかくやし買い物つき合うたるよ」

「あっ話逸らした?」

「今週は部活も休みやから暇なんや、ほな行くで」

私の声なんて聞こえてないかのように一人話を進めてさっさと歩き始めてしまう白石に目を白黒とさせる。逸らしたというか逃げられたというか。立ち止まったままの私を振り返る白石が早く!と手を振った。その姿に呆れて言葉が出てこなくなってしまった。

…まあいいか、一人でいてもつまんないし。結局そんな答えに至るのに数秒も掛かりはしなかった。
少し先で立ち止まって、私が来るのを待つ白石に待ってよ、と声を張る。白石は私が彼の元に着くまでただ微笑みながら待っていてくれた。




「ほんで?どこ行くつもりやったん?」

駅の改札を通り抜けたすぐ目の前、見上げるのは地元の憩いの場。大手ショッピングセンターである。

「ぶらっとしようかと思って」

「女子ってそういう目的のない事するの好きやな」

「逆に男の子は目的のない事するの好きじゃないの?」

「んー?俺は好きやで」

なにそれ。思わず笑って言えば白石も小さく笑った。それにしたってよっぽど暇だったのだろうか、いや暇じゃなければ数年ぶりに話す幼馴染とバッタリ出くわしたくらいでわざわざお出かけにくっついて来やしないだろう。
そういえば小学生の頃はよく二人で遠くの公園まで遊びに行ったりしたっけ。近くの公園は飽きたからって、自転車で隣の市の公園まで行ったりして、帰りの時間を考えずに目新しい遊具で遊んでいたものだから門限を大幅に過ぎて二人して怒られたり、なんて割としょっちゅうだった気がする。遠い昔の話を思い出して一人笑う、白石はそんな私に目を向けると覗き込むように視線を合わせてきた。


「なーに笑っとんねん、何かおもろい事でもあった?」

「……いや、よっぽど暇だったんだなって思ったらおかしくって」

「暇…まあ、暇っちゃ暇やったなあ。部活がないとどうも調子狂って仕方ないん」

「あー、謙也もそんな感じだよ。たまにの休みの日一緒にいても心ここに在らずって感じでさ」

基本的に漫画読んでるよなぁ、と思い出して少し嫌な気持ちになる。ここ最近はずっとそんな感じで一緒に外出なんて最後にしたのはいつだったっけ。会話もお互い必要最低限のみで、結局何も話さずにバイバイをすることもしばしばだし。
なんだか最近はとりあえず休みには家を行き来して、とりあえず一緒にいるというような感じばかりだ。よく言えば安定したのだろうし、悪く言えばマンネリだ。最近は謙也といても楽しいという気持ちは浮かんで来なくなってしまった。けれど、やっぱり安心はできる。
高校三年間を謙也とともに過ごしてきた。はじめはドキドキもしたし好きが溢れるってどんな気持ちなのか私は謙也に教えてもらった。けれど、三年も経ってしまえばそこに何かを求めるのは無理な話なのだろうか。

謙也のことを考えれば考えるほどに気分が沈んで行くのがわかる。記念日を忘れられていたショックが今になってぶり返してきたようだった。

「はぁ」

「ほんま見てて飽きないっちゅうか、忙しいなぁ。今度は何考えてるん?」

「…記念日忘れられてても一応悲しいと思えることに安心してるところだよ」

本当嫌になってしまう。記念日を忘れる謙也も、こんな嫌味しか言えない私も。それを自分の中で留めておけばいいものを、耐えられずに白石に言ってしまうのも。

「白石、今日は…」

「三年目の記念日に謙也やなくて俺とデートしてるんやで?なかなか考えるだけでイケない感じがええやん。ほんで謙也はデートしたくてもできひん。逃した魚は大きいっちゅうことや!今日は俺とデート楽しも」

沈む私を元気づけるためだろう、白石は明るくそう言って私の手を優しく握った。
暖かくて大きな手のひらに、今までの負の感情が綺麗さっぱり消えて無くなる。それらをすべて吹き飛ばしたのは驚きと、緊張感だった。
謙也以外の男の人の体温に触れるのは、初めてかもしれない。ドキドキと心臓が煩く鼓動する。
えっいいの?これってあり?謙也の顔が一瞬頭を過るが、そうだ悪いのは謙也なんだ。あとでたっぷり今日のデートを嫌みたらしく報告して後悔させてやる。

そうと決まれば罪悪感なんてなくなる。
白石のその大きな手を握り返して、ちょっと恥ずかしいかも、と笑った。そうだ、罪悪感なんてない。白石はただ私を慰め元気づけるためにしてくれているだけで、別にやましいことなんて一つもないのだから。