同じ闇の中で【19】
異能力、とは何なのだろう。
自らに宿る王を見上げ、なまえはふと考えた。敦はまだ、意識が戻ってきていない。
敦に異能力が戻らない理由を、なまえは解っていた。敦は自らの過去の中で、それを見つけなくてはならない。そして、澁澤を、今度こそ排除しなくてはいけない。
地響き。
さっきもだったが、この一帯で何が起ころうとしているのか。不穏な空気は霧と共に、ヨコハマ一帯を覆い尽くしている。澁澤は一体、何がしたいのだろうか。
突如、骸砦の方角に、目映い光が弾けた。
「…なん、だ、あれは」
光が収束するその中に、それはいた。霧が立ち込める夜空の中に現れたそれは大きくうねり、凶悪な頭を持ち上げ、霧の夜空に向かって咆哮した。
龍が、いた。あれは、誰かの異能力なのか、それとも。
王様がふわりと覆い被さる。頭上からはらはらと瓦礫が降ってきていた。龍が吠える。その口から、エネルギーが放出される。
龍は、何かと戦っているようだった。遠くてなまえには何も見えないが、暴れている龍の姿は見える。きっと、あれと戦っている誰かがいるのだ。
「敦くん、…」
そして今、なまえの隣にも。
「聞こえて…ないだろうがな、聞いてくれ、敦くん。わたしは、自分の異能力が好きだ。王様が好きだ。いつもわたしの傍に居てくれて、守ってくれる王様が、わたしは好きなんだ。異能力とはなんなんだろうな。…わたしは、考えてみてもわからない。でも、わたしはこの異能力があったからこそ、今のわたしという人間でいられている。王様がいなかったら、わたしは今ここにいないかもしれないし、…もっと、ずっと前に死んでしまっていたかもしれない。わたしと一緒に生きてくれている王様は、異能力は、…きっと、わたし自身だと思うんだ。わたしの身体に流れる血のように、だから、」
「みんなの、いのちが、…燃えてる…」
敦が呟いた。徐々に、敦のその目に、炎が宿る。
「…そうだな、」
敦の身体が、青白い光に包まれる。次に開いた敦の瞳にもう怯えはなく、その身体の傷はなくなっていた。
「なまえさん、…」
「おかえり、敦くん」
「澁澤を、止めないと」
ぐっ、と腰を落とした敦に、虎の力が駆け巡る。
「ああ、気をつけて。いってらっしゃい」
見送るなまえを振り返る敦に、もう、迷いは無かった。
「はい!行ってきます!」
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