同じ闇の中で【13】
鏡花の目は、夜叉白雪を見ていた。次々と刃を繰り出す夜叉白雪。間一髪でかわしながら、鏡花は反撃の隙を狙っていた。
ぷつり。
首からぶら下げていた携帯電話の紐が切られる。母親の形見、だった。
「!」
だが、それを気にかけていられるほど夜叉白雪は甘くはなかった。徐々に、徐々に圧され、じりじりと、後退させられる鏡花。
鏡花には、澁澤を排除するために、夜叉白雪の異能が必要だった。夜叉白雪は殺戮の異能。倒せば異能は鏡花に戻る。そしてそれは、夜叉白雪と鏡花がまた一体となることを示していた。
(それでも、…)
(それでも、わたしは…!)
降り下ろした夜叉白雪の刀に、鏡花の刃が折れた。夜叉の刃が、真っ直ぐに、鏡花の喉をとらえた。
『───それでも、その力を皆のために使いたいんでしょう?鏡花』
鏡花は、母親の形見の携帯電話が鳴ったような気がした。
懐かしい声。
懐かしい姿。
…青空と草原が、見えた気がした。
「…、鏡花ちゃんッ!!!!」
敦の声で、鏡花は現実へ引き戻される。夜叉の刃は、鏡花の喉元寸前で止まっていた。敦の持っていたコンクリートブロックが、ギリギリのところで、鏡花を守っていた。
「額の結晶を砕くんだ!」
そう。目の前には、倒すべき相手がいる。鏡花の瞳に鋭い光が戻る。夜叉の額を捉えた。たすき掛けをしていた紐を解く。
跳躍。
夜叉の顎を紐ですくいあげ、そのまま着地。無理矢理背中を仰け反らせた夜叉の額を、その結晶を、鏡花は小刀の柄で、割り砕いた。
夜叉は光の粒になり、消えた。
「鏡花…、」
安堵の声を漏らすなまえ。その隙。
虎が、王様を踏み、飛び上がる。
「しまっ、…敦くん!」
王様を飛び越え、虎はまっすぐに敦に向かう。
その鋭い牙が、敦の足を捉えた。
「、が…ッ!?」
「!」
「敦くん!!」
虎は敦の足に食らいつき、そのまま引きずっていく。刹那、敦が放り投げられる。強かに背中を打ち付けた敦へ、一寸の迷いもなく、白虎が飛びかかる。
このままでは、敦が。
だが、
「、う、おおおおおお!!!」
敦は、諦めてはいなかった。
敦の腕には、コンクリートブロック。
夜叉の刃が刺さったままの、ブロック。
夜叉の刃を虎へ向ける。
自らを喰いちぎらんと飛び掛かる虎へ。
敦は思い切り、振り抜いた。
コンクリートブロックが、
虎のくちのなかへ、吸い込まれる。
だめ押し。敦は足で、ブロックを更に押し込んだ。夜叉の刃が虎の喉奥を裂き、うなじへと貫通した。
虎のうなじにあった結晶を、
夜叉の刃が、貫いた。
虎も光の粒となり、消えた。
ごとり。
ブロックの落ちる音が、鈍く響いた。
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