同じ闇の中で【12】
血が舞う。なまえの叫びが反響する。
「だい、っ…丈夫…です…!」
虎の爪により裂けた腕から、止めどなく血が流れている。
「…ちくしょう…!」
虎の力が無くなって欲しいと思ったこともあった。今、敦には虎の力は無い。けれど、異能に、あの虎に襲われるなんて未来は想像していなかった。
「、ひっ!」
虎が吠え、敦目掛けて飛びかかる。寸前で王様がそれを受ける。普段なら余裕すら感じられる王様が圧されていた。
なまえにも、焦りが見える。
「なまえさん、王様が、…!」
「ああ、どうやら敦くんの虎とは相性が悪いらしいな。…王様は攻撃ができない。何か武器になるものを探さないと」
「武器に、なるものを…」
辺りを見渡す敦の視界に、どこからやってきたのか、コンクリートブロックが飛び込んできた。走り出し、敦はそれを抱える。
その間も、『夜の王』は、削られながらも虎の爪を受けていた。
「…、埒が明かないな、これは…!」
どこかに活路はあるはずだ。傷ついてゆく王様を不安そうに見つめているなまえだったが、諦めてはいなかった。あの虎を倒し、敦に異能を戻す。戻せるはずだ。
***
…芥川は、溶鉱炉の真上にいた。
煮えたぎる鉄の上、彼は通路の端を辛うじて掴んでいる。
「チィ、…」
それを、羅生門が上から狙っていた。羅生門から放たれた刃を芥川は間一髪で避け、鉄棒競技よろしく腕の降りで勢いをつけて飛び上がる。羅生門の刃が通路を切り裂いてゆく。真下にある煮えた鉄の中に、次々に沈んでいく。芥川は刃を避けながら、羅生門へ向かっていく。
羅生門は、とどめとばかりに飛びかかるが、芥川は振り払う。そのまま、勢いのまま、羅生門は鉄の海へ落ちていった。
「計算通りだ…、何っ!?」
沈んだ羅生門は、溶けてはいなかった。異能だからなのだろうか、からだのあちこちに液体になった鉄をまとったまま、羅生門は悠々と赤い海から這い上がり、芥川目掛けて歩を進める。
「やつがれの異能なら、そうこなくてはな…!」
どこか嬉しそうに呟いた。
「だが!」
芥川のその手には、手榴弾。羅生門の足が止まる。身に纏っていた鉄が冷えて固まり、羅生門は身動きがとれなくなっていた。
「う、おおおおおおおお!!!!」
芥川はピンを抜き、手榴弾を羅生門の腹の中へ叩き込む。
爆破の衝撃で、羅生門の結晶は砕け散った。
「…、それでいい。お前は、そこに居ろ」
鉄の海を眺めながら。
芥川の黒い外套には、獰猛な獣が宿っていた。
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