同じ闇の中で【14】
「…、はは」
なまえは、その場にへたりこんでいた。あっという間に、鏡花の異能も、敦の異能も結晶を砕かれ、宿主に戻っていった。
「わたしは…、何もできなかったな…、」
それを成長と喜ぶべきか、自分の不甲斐なさを呪うべきか。なまえには、すこし解らなくなっていた。
「、けほ」
背後から咳。近づいてくる人物の心当たりは、なまえには、ひとりしかいない。
「…君も無事に、異能を取り戻したのか」
「ふん、…このようなもの、やつがれには些事だ」
なまえを見下ろす芥川の黒い瞳を見上げて、なまえは微笑む。
「…貴様にも、異能は戻っているだろう」
「ああ、君たちよりも早かったんだぞ?」
「…、」
答えはなかった。
芥川の視線は既になまえを離れ、同じように座り込んでいる敦に向けられていた。虎にやられた腕をおさえている、敦。それを見て、芥川の眉間に皺が寄る。
「、チッ」
舌打ち。なまえも敦を見る。敦も鏡花も、異能は戻っているはずだ。
だが何かがおかしい。
(あれ、)
なまえは、芥川の不機嫌の原因に気づいた。
「…敦くんの傷が…治って、いない…?」
虎の異能には、再生能力があったはずだ。敦の傷を『無かったこと』にしてしまえるほどの、驚異的な回復能力。それが、敦に虎の異能が戻っているのに、発動していない。
「どうして、僕だけ…戻らないんだろう…」
座り込んだままの敦。近づく芥川。
「…愚者め!まだ判らぬのか!!」
項垂れる敦に、芥川の檄が飛ぶ。
「何なんだよ、…、何なんだよ!おい!芥川!どういう意味だ!!」
敦に一喝し、芥川は気持ちを切り替えたのか、視線と足は真っ直ぐに骸砦へ向かっている。
「貴方は傷付きすぎた…後は私たちに任せて。貴方はここで休んでいて」
鏡花もまた、向かうべき場所へ。
「…なまえ、」
なまえは、差しのべられた鏡花の手を取り、立ち上がる。
「ありがとう、鏡花」
「なまえ、お願いがあるの」
「…、うん、わかった」
鏡花は、なまえと軽く会話をし、敦へ振り返る。
「黙っていてごめんなさい…」
ぽつり、と鏡花が呟いた。
知られたくなかった。
携帯で動く夜叉白雪を、
本当は、嫌いたくなかった、と。
「え、…」
知らなかった。敦は、鏡花の気持ちを、知らなかった。あっけにとられている敦に背を向け、鏡花は、芥川に続いて骸砦へ進む。
「待って、鏡花ちゃん、…っ!」
傷の痛みからか、うまく立ちあがれない。情けなく地面に転んでしまった敦を、しかし、鏡花は振り返ることはなかった。
「…、鏡花ちゃん…っ!!」
敦の叫び声が、霧の中に、こだました。
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