薔 薇 色 の 地 獄 。 | ナノ
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目下の泥濘【2】




なまえの働きは、目覚ましくもなく。かと言って無駄なことはひとつもなく。

物理攻撃を通さない、防御の異能『夜の王』。『首領を守る』という仕事は、果たして彼女の異能にぴったりであった。

そして。

「なまえ、この服なまえにぴったりだと思うんだよ〜。ぜひとも!着てくれないかな?」
「…それは、エリスに…」
「エリスちゃんは赤が似合うからねぇ。黒はやっぱり、なまえの方が可愛いんだよ」
「……、はい」

首領に会うたび、違う服。なまえは可愛く着飾られていた。金髪碧眼の天真爛漫なエリスと、髪も目も黒くミステリアスななまえ。少女がふたり、首領の傍らで綺麗なコントラストを描いていた。


「でもよ、なまえは…あいつ、14歳だとよ」
「…首領の範囲外じゃないか」

中也と太宰。並んで呑んでいた。

「見えないだろ?」
「幼すぎる。…もしかして」
「だいたい手前が思ってるので当たりだ。家の地下室にいた。満足に飯も食えてない状態でな」
「…虐待…」
「異能持ちだ。可能性はある」
「だから殺さなかったのかい、中也」
「ああ、異能も使えそうだったしな。口説き落とすの、大変だったぞ」

「…綺麗な子だったねえ、なまえは」
「首領が気に入るのもわかるだろ」


からからと氷がグラスの中で音をたてる。

「…もう少しこう、笑顔になってくれたら、嬉しいんだけどなぁ、私としては」
「美人と見たらすぐこれだ…。だがな太宰。ありゃ首領のもんだよ」
「勿体ないなぁ…。私ならもっと幸せにしてあげられるのに」
「心中だけはやめてやれよ…、っと」


ちらり、と後ろの席を見る。アタッシェケース。数人の男。

「いたぞ。やれ」


手元の端末へ、中也が呟く。


瞬間、銃声が1つ。悲鳴、怒号、ガラスの割れる音。ばたばたとせわしない足音。


「捕まえろ!殺しても構わねェ!俺らポートマフィアの島で好き勝手はさせねェ!」

アタッシェケースから銃がこぼれ落ちる。

「まだ捕まえられてなかったの?横流しされてた武器」
「五月蝿ェな!こっちにも都合ってものがあんだよ!!」

中也の重力操作で、次々と倒される。それでも逃げようとする者に、銃弾の雨が降る。

逃がすな!追え!殺せ!次々と銃声と怒号が交錯する。


「…五月蝿い」


そんな血腥い場所にそぐわない声がした。場の空気が、凍りついたように思えた。

中也と太宰の視線が、入り口に向けられる。

黒く艶のある髪。
真っ黒な瞳。
黒を基調としたワンピース。


「…なまえ、?」
「手前、どうしてここへ」

「首領から、言われて来た」

ペコリとお辞儀をする。足元から、黒い円が広がる。

「『中原くんと太宰くん、二人ならまあ大丈夫だとは思うけど…。一応、見て来て欲しい。そして、危ないようなら異能で守ってあげなさい』と。それから、…」

なまえの足元から、ずるずると王様が這い出てくる。


「…『目障りな鼠は、一匹たりとも逃さないように』、と」












「……本当に凄え守りだったな、なまえの王様は」

先刻を思い出し、中也が舌を巻いた。

「私も守ってもらいたかったなぁ、王様に」
「…貴方に触れたら、王様が消えるから、嫌です」

ため息をつく太宰に返すなまえの一言に、隣で中也が大笑いをした。

「ははっ、手酷く振られたなぁ、太宰」
「悲しいなあ…私はこんなにもなまえを想っているのに」
「想われるだけでもあまりいい感じはしない。できることならやめて頂きたいです」
「くっ、…はははははは!!」

中也は、太宰の肩を叩きながら大笑い。太宰は憮然とした表情。

あのあと銃を横流ししていた輩を一掃し、三人で首領へ報告を済ませていた。

「景気付けに呑み直すか、なまえ」
「お酒は呑めない、です。オレンジジュースでいいなら」
「そういうところは子供だなぁ…。ところでなまえ、お前そんな喋り方だったか?」

「…首領が」

「ほう、」



『なまえは素直に言うことを聞いてくれる。それは嬉いんだけどね?たまにはエリスちゃんみたいに嫌がったり、我儘を言ってくれてもいいんだよ?あと、その喋り方ね。可愛くて好きなんだけど、もう少しこう、人を見下したような目線で、ちょっと高慢ていうか、ぶっきらぼうって言うか、エリスちゃんとちょっと違う感じで喋って欲しいなー、なんてね?ね?いいでしょ??』



うわぁ。

珍しく、太宰と中也が同じように、苦虫を噛み潰したような表情になった。

「…そういうことか」
「…そういうことです。すみません」



「…ねえ、なまえ」
「はい、」


太宰の、問いかけ。


「もしかしたら、だけれど。なまえは今後、首領から言われたら、あんな風に前線へ来ることも有り得るのかな?」

さっきまでの緩やかな声音ではなかった。少しだけ怒気をはらんだ、太宰の声。



「…首領の命令なら。貴方や中也さんや、他の幹部、前線の構成員。わたしが居ることで守ることができるのなら、…わたしが、できることなら」


その言葉に、嘘や偽りは無かった。

「…そう、」




その返事に、果たして太宰は満足してくれたのか。なまえには、まだ解らなかった。




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