同じ闇の中で【07】
結晶は砕け散った。王様は形を保てなくなったのか、どろりと溶けて消えてしまった。
「ぐ、っ……、はぁ、…げほっ、」
二度三度、むせた。そのままなまえは前のめりに倒れて、床に転がった。
もともとそこまで体力は無い。すっかり疲れきっていた。ぜえぜえ、と荒い息で、なまえの胸が大きく上下する。
「わたし、は、…戦闘向きでは、ない、…な、」
はは、と自虐的に笑う。そんななまえの視界に、ふわりと王様が現れた。眉間には結晶はなく、なまえを襲おうという気配もない。伸ばした手が、恐る恐る、なまえの首に触れる。まるで、自らの行動を謝っているかのように。
「…これからも一緒に、いて…くれるか?」
頷いた。
それだけで、なまえは満足だっだ。
「…行こう、か」
骸砦へ。
さあ、太宰さんに、会いに行こう。
「とは言うものの…、」
ヨコハマ祖界の中心地。この駅からどれだけかかるのやら。コンコースに座り込み、途方にくれてしまった。
「地下鉄でも通ればなあ」
地下鉄。なまえは、何も居ない線路をぼんやりと見る。
そのとき、王様がふわり、と線路を覗き込む。
「…、そう、いえば」
そう、ここは、太宰とふたりだけで来た駅。その時に、太宰が何かを言っていた。
『なまえ、もし良ければ覚えておいて欲しい』
『…、何を?』
『我々ポートマフィアはね、もしもの時のために、あらゆる場所に、秘密の通路をこしらえているのだよ。…逃げるためや、奇襲のために』
『ここにも、あるのか?』
『あるとも。ここにも、勿論』
秘密の通路。それを使えば、骸砦へ、とまではいかなくとも、近くまでは行けるかもしれない。なまえはホームから線路へ降り、犬走をたよりに歩き出す。
「確か、太宰さんが言っていた場所は…、」
薄暗さに目が慣れてきた頃、それは見つかった。
機械室。その隣に、もうひとつの扉。おそらくこれだと思われるが。
「どうやって、開けるんだ…」
パッと見は普通の扉だが、鍵穴らしきものどころか、ドアノブすら見当たらない。
が。
「、これは…」
縦に細長い穴がある。ここになにかを差し込む、のだろう。
けれど。
何を?
ポートマフィアの社員証だろうか。それとも、専用のカードキーのようなものだろうか。
「…しゃらくさい!!」
今のなまえには、これしかない。振り上げたナイフを穴に突き立てる。がこん、と鈍い音が扉の向こうからした。
「当たるものだな…」
ゆっくりと左右に扉が開く。エレベーターだった。中に入り、ひとまず最下層のボタンを押す。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
エレベーターが、動き出した。
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