同じ闇の中で【06】
ああこれは、走馬灯だろうか。少しずつ、なまえの意識が遠のいていく。
あの暗く暗い檻の中で、王様だけが、いつも寄り添ってくれていたあの黒い澱みだけが、わたしの味方だったのに。
その王様が今、明確な意思を持って、
わたしを、殺そうと、している。
「ま、だ…まだ、…!」
なまえの伸ばした手が、ボイスレコーダーを握る。力が入らない。手が震える。
かろうじて、再生ボタンを押す。
そこにはただただ、ノイズが広がっている。
太宰の声も、
誰の声も、聞こえない。
「…、そう、か…」
もういい、かな。
なまえの目から、少し、希望が消えた。
死ぬこと自体はもう怖くはない。王様に殺されるのならそれもいいかもしれない。
だらりと手が落ちる。
「だ、ざい…さん………」
太宰さん、約束を守れなくてごめん。
ぶつり、
ノイズが切れて、太宰の声がした。
『やあ、なまえ。この音声を聞いている今、君がどんな状態かはわからない。けれど、きっと、今のなまえならこの状況を打破できると信じている』
「は、…」
勝手なことを言ってくれる。打破できる?今この状態を?
なまえの意志を無視するかのように、太宰の音声は軽快に喋っている。
『なまえから離れた異能を元に戻すには、エネルギー源となっている結晶を壊すことだ』
結晶。
そうだ。
よくよく見れば、王様の眉間に見慣れない輝きがある。あれを壊すのか。
『王様はきっとなまえを殺しにくる。なまえは絶望するかもしれない。けれどこれは、敵の異能による異常事態だ』
なまえはまさに今、絶望に身を浸している。そうしてこの死を受け入れようとしている。
『なまえ、よく聞いてほしい。君のよく知っている王様は、なまえの命を狙う、なんてことをするだろうか。…王様は、ずっと、君を…なまえを守ることしか考えていなかったのではないかな。なまえ、もう一度良く考えて。そして行動してほしい。
今、君の目の前にいる王様は、本当になまえが一番良く知っている王様なのかい?』
「…ち、がう」
違う。
なまえの目に、火が灯る。
「う、ああああああああああ!!!」
両膝を曲げ、渾身の力で王様の腹を蹴る。まさか反撃されるとは思わなかったのか、王様はあっさりとなまえから離れた。
「げほ、っ…、お前、は王様なんか、じゃない。王様の姿を騙るな。わたしの、わたしの王様は、そんなことは、しない…!」
そう、たとえ目の前のお前が本当にわたしの異能であるならば、尚更だ。
王様に人殺しをさせるわけにはいかない。約束したじゃないか、王様と。人を傷つけることは、殺すことはしないと。そんなことはさせないと。
「先に進ませてもらう…!」
アタッシェケースを掴む。
走り出す。
大きく振りかぶる。くるりと一回転し、遠心力も加える。王様は左手でそれを受ける。やはりというか、びくともしない。
王様の右手がなまえの襟首をつかみ、持ち上げる。
「、王様」
不敵に笑い、残った力を振り絞るようになまえは両足を振り上げ、王様の首を足で締め付ける。
「こ、のッ!!!」
身体にひねりを加える。その引力と遠心力任せに、王様を床へ叩き付けた。
王様となまえ、先ほどと立場が逆転する。
床に縫い付けた王様を逃がさないように、その手が伸びてくる前に、
「…終わりだ」
ふりかざしたナイフを、眉間の結晶に突き立てた。
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